食狗体験記於支那


 過日、支那の雲南省方面を旅行した際に、下関 (シークワン) という街に寄った。 この街にはアルハイというみずうみのほとりにアルハイ公園という大きな公園があり、 市民の憩いの場所となっている。その公園を散策し門から出ると、售票処 (入園のきっぷうりば) の近くに「狗肉」と書かれた汚い食堂があるのを友人が発見した。 彼はわたしの犬肉話を知っているので「あそこに狗肉ってあるぞ」と教えてくれた。 わたしは食堂があまりきれいでないので躊躇したが、雲南省方面は広東省と違ってあまり犬を食べる習慣がないらしく、それまでの旅程でもまったく犬を喰わせる店を見なかったので、ここで食べなければ他では無理かも知れないと思って、食べることにした。

 友人を誘うが、ゲテモノはいやだし衛生状態に問題がありそうというのであっさり拒否 (その後、上海のレストランで蛇料理を見つけ、オーダーしようとするも、彼が拒否。その堅実ぶりにより彼は腹をこわさなかった)。勇気を奮い、一人で店に向かった。店の前では店主と近所の連中が飯を食べながら雑談にふけっていた。客が近づいてもよそ向いていたりするのは日常茶飯事なので 「ウェイ!」と声を掛ける (これは「ちょっと」くらいの意味で、電話などでも「もしもし」の要領で使われる便利な言葉)。「狗肉」の字を指差し、「OK?」と訊くと、どうもいけるらしい。椅子に着き値段を聞くと20元とのこと。これは少し高いので (普通の昼飯なら10元出せば二品ほど頼める) ぼったくっているように思えたが、ここ以外に「狗肉」を出す店は旅行中に見あたらなかったし、今後もこの地方を旅するならなさそうだったので、思い切って頼んでみる。他にビールはどうか、ご飯はどうか、と勧めてくるので「ブーヤオ (不要)」と断る。

 そして、いよいよ器が運ばれてくる。中を見ると濃い汁の中に肉が入っていて、結構匂いがする。「犬の肉は筋張っていて固い」と言われているが、食べてみると肉は意外にも柔らかい。断面はスポンジのような構造になっているようだ。ただやはり独特の匂いがたち上ってくる。店の人間が、ペパーミントを持ってきて器に入れ、中で混ぜろ、と言うので混ぜて食べる。どうも匂い消しのためらしい。肉は一度炒めたモノを汁に入れているようだ。肉が生っぽかったら全部残すつもりでいたので、そのあたりはきちんと確認しておいた。生肉だととんでもないことになるからだ。汁には他に唐辛子もたくさん入っていた。肉は骨付きやら脂身やら関節部分やらいろいろな形状で入っていた。しかし脂身は脂っこいのと匂いで断念、関節部分らしき肉も脂身が多く食べなかった。結論としてさほどうまいモノではないが、ただ犬料理の本場・広州でないコトを差し引くと今後も様々な調理法で研究してみる必要がありそうである。


もくじ