le gastronomique de chien

犬を喰う一家のおはなし (実話)


 日本国内ではごく一部の地域を除いて現在犬食の習慣は消滅してしまっている。しかし、現在も恒常的に犬食を行っている一家が近畿圏に存在していることがわかった。以下はそのZ氏の一家に関する調査記録であるが、Z氏一家の人々は警戒心が非常に強く、Z氏一家についての証言を寄せていただいた人の話を吟味すると、Z氏一家に対する直接的な取材には相当な危険が伴うと判断し、間接的な取材のみとなったことを予め諒承していただきたい。

map  その犬食を行うZ氏一家(以下、Z家と表記)は、大阪から直線距離で25km弱のH県I町に位置している。そばには川と、その川沿いに20ないし30分ヘッドでバスが通る県道があり、2km程離れたところには大規模な住宅開発地がある。付近に住宅は川に架かるB橋を隔てた対岸に自動車整備工場が一軒ある他はなく、Z家で一つの部落を形成している(図参照)。また後述のF氏によると、家族は判明しているだけで5人で、以前は電気が通っていなかったので自家発電を行い、B橋も3年ほど前は丸太を3本ほど並べた簡素なもので、通路AもB橋が架け替えられるまで未舗装であったという。また、Z家は山林と水田を所有してもいる(注)という。

 匿名を条件に取材に応じてくれたF氏はZ家から山を越え、直線距離で約1km離れた住宅地に在住している。F氏は県道の交通量が多く、また歩道が設置されていないので、通路Aを通って小学校に通学していた。初めのうちは犬の多い家だな、程度の認識しかなかったという。なぜなら当時、Z家は常にE点で犬を十数匹飼育しており、登下校をする小学生が自分の気に入った犬にめいめい名前をつけ、給食の残りを与えていたという状態だったからである。しかし、小学5、6年の頃、名前をつけてかわいがっていた犬の姿が見えず、不審に思っていたところ、川の下流の堰(X地点)のところに、その犬の切断された首が転がっており、それと前後してF氏の友人が、Z家の人が、刃渡り40cm程度の刃の厚い蛮刀で何やら表(D点付近)で返り血を浴びながらペチペチと肉を叩いて、筋を切ってミンチにしていた、と語ったことから、Z家の人がその犬を屠ったのは間違いなく、多数飼われている犬も食用目的である、と判断したという。その後、Z家は犬食をしているとの話は以前から広まっていたことが分かり、F氏が通学の際にその多数の犬を観察していると、Z家は犬を捕獲してくるほか、自家交配して数を増やしていることも判明したという。また、同じ時期、I町で開発が進み野犬が出没するようになり、自治会などが通学する子供に危険が及ぶのでI町に対して野犬狩りを行うよう要請した。野犬狩りの日程が決定され、自治会に告知されて数日後にZ家の人々が、「I町はどうぶつぎゃくたいをやめよ」などと誤字脱字交じりで書かれたプラカードを持ち、町役場前でデモンストレーションを行った、とのことである。これはおそらく、Z家の人が、野犬狩りが行われると食料源の固体数が減少すると考えたためではないかと思われる。
 その後、F氏は自転車通学になったために通路Aを通行する必要がなくなったので、Z家の内情は不明であった。

 しかし、1992年の10月に私はF氏の案内の下、Z家を観察のため訪れた。F氏によるとかつてはE点に「犬牧場」があったそうだがもはやD点とF点に1匹ずついるのみであった。
 その1か月後の11月某日、F氏は夜11時頃オートバイに乗って帰宅を急いでいた。2年前ほどに通路Aが舗装され、B橋も架け替えられてオートバイの通行が可能になっていたので、事情により抜け道を探していたF氏は、県道からB橋に向かい、細い橋なのでスピードを落とすと、C点でZ家の50歳代と見られる女性が深夜にもかかわらずなにか洗濯済みの白いシーツのようなものを干していた。F氏は不審に思ったが、何分いわくがある家のこと、急ごうと急加速したところエンストを起こし、バランスを崩しかけたのでブレーキをかけ、オートバイから下車した。なにやらD点から物音がするのでそちらを見ると、ざんばら髪の女性が大きな刃物でなにかを叩いている様子であった。F氏は、以前の出来事が頭にあったので逃げようとすると、その女性が振り向いた。電球の明かりの下、手に長さ40センチぐらいの蛮刀を持ち、白いエプロンには多量の返り血が付着していた。F氏は身の危険を感じ、逃げようとするがエンジンがなかなかかからず、エンジンがかかるや否やほうほうの態で帰宅したという。

 このI町は近年大都市のベッドタウン化に伴い急速に開発が進んでいる。それに伴い、人口が急増し、I町はインフラの整備を進めている。このような背景から通路Aの通行量が増え、通路A並びにB橋の整備が行われたと考えられる。前述のとおり8、9年前にはE点での犬の頭数が10数匹だったものが、私が実際にZ家の前を3回にわたり観察したところ、現在はE点とD点に1匹ずつ、計2匹しか確認できなかった。さらにこの2匹も、昨年の10月に確認した犬と1993年の4月に確認した犬とは明らかに異なるものであった。これは、通路Aの通行量が増加したので犬を10数匹も飼育すると通行人に不審に思われると判断し、所有する山林に残りの犬を飼育していると思われる。

 Z家の人々は犬を食用にするという自らの生活様式が世間一般には受け入れられないことを認識しつつも、今後もそれを改める事なく、保持し継続させていく意志がこれらの事実からうかがえる。

(注) この部落に居住しているのは証言によるとZ氏と言われているが、登記簿上、土地の所有権はZ氏ではなく、精密地図に記載されているK氏のものになっている。また、この土地は昭和28年より、乙区欄に抵当権が設定されている。


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