le cinema - あらすじと感想文


やくざ刑罰史・私刑 (リンチ)!

1969年 東映京都 / 監督:石井輝男 / 出演:大友柳太郎・菅原文太・石橋蓮司・大木実・吉田輝男・藤木孝


 レンタル店でこの映画のパッケージを見ると血まみれの菅原文太のスチールにあおり文句で「異常狂気!」とか書いてあるし、石井輝男にやくざ、刑罰史、リンチ、と足し算をすればどんな解が出るかぐらいはぼくにもわかる。ということで、これは相当めちゃくちゃな映画なので覚悟して見なければなるまい、とのこのこ劇場に足を運ぶと、『徳川いれずみ師』なんかを「モンドな感覚」で見に来るような平和なカップルの姿はどこにもなく、中年男性や、いかにもこの手のが好きそうな男性がぽつりぽつりといるだけだった (その日女性はひとりだけだった。ひょっとして某有名サイト女史か?)。

 オープニングから簀巻きにされてぼこぼこにされるやくざや、掌にドリルで穴をぐりぐりとあけられるやくざ、パワーショベルのバケットに乗せられておびただしい流血をするやくざ (よく考えるとただバケットに乗っているだけであんなに血が出るのは変だ。とりあえず、バケットの先の爪で腹をえぐられたと考えておく) と、これでもかと「この映画はどぎついですよ」と訴えかける。なにもしらずに併映でこれ見た人はこの時点で帰っちゃうに違いない。

 話はいつもの石井輝男式オムニバス構成で、1部が江戸時代、2部が明治・大正、3部が現代となっており、それぞれの時代のやくざの掟とそれを破った者への仕置きがクローズアップされる。1部での掟は「盗みと間男は法度」で、「間男」の掟を破ってしまった菅原文太と、賭場の売り上げを女のためにちょろまかしていた林真一郎が「盗み」の掟破りで、そして讒言で陥れられた大友柳太郎の3人が仕置きにかけられる。ここでの仕置きは目をえぐられるのだけど、菅原文太が両目をえぐられそうになるのを大友柳太郎が「指でもおまんま食えるように人差し指と親指は詰めないのが人間だ。てめえら人間以下だ」と啖呵を切り、これでも喰らえとじぶんの目玉をくりぬいて親分に投げつけて、親分を切り捨ててしまう。往年の剣劇スタアが目玉くりぬくとはすごい映画というかなんというか。

 しかし、目をえぐるところをべつにアップでぐりぐりと見せつけるわけでもなく、くりぬかれましたよーと言わんばかりの悲鳴と瞼の上に貼った絆創膏の血糊で見せるだけなので、スプラッタな感じはしない。これは石井輝男の映画全般にいえることで、実は名物の残酷描写もだいたいが形式的で想像力に訴える部分が大きい。ともあれ、この話での最大の収穫は小ずる賢く立ち回って保身をし、林真一郎をゆすったり、親分にいろいろ嘘をふきまくるやくざを演じる石橋蓮司である。このひとはこういう調子いいキャラクターがはまるんだよなあ。結局、いろいろウソついていたのがばれて、舌を切り取られて悶絶死しちゃうという、死に方まで情けない役だった。

 第2部は大正時代のクラシックなテイストの任侠話。組のために人を斬った男・大木実が娑婆に出てくると、組の連中に全部罪をなすりつけられてしまっていて、ところ払いになっていたにもかかわらずじぶんの女懐かしさに舞い戻ってきたところ、リンチにあってしまう、というのが「リンチ」の見せ場らしい。割れた瓶で手を傷つけられてしまう程度 (といってもかなり痛そうなんだけど) のリンチで、たいしたことはない。最後には敵である組の連中を叩き斬って、好敵手の元にいた女ももどってくるというこれだけでも1本任侠映画ができてしまう話である。

 おすすめなのは現代を舞台にしたアクションものの第3部。やくざの幹部・藤木孝と、謎のさすらいスナイパー・吉田輝男を軸に話は展開する。いきなり冒頭から組の金を持ち逃げした男を追いかける藤木孝がガスタンクをぶっとばすは、持ち逃げ男をヘリコプターで豪快に引きずり回して、海中に漬けたり砂浜をひきずったり、挙げ句の果てには船のもやいをひっかけるコンクリに男をぶつけてべこっという音とともに絶命させるというスピード感あふれる展開。藤木孝は吉田輝男とお互い利用しつつ、浮気をした愛人・片山由美子とその間男をコンクリート詰めにしたり、裏切り者の幹部の顔をライターで焼いたりとリンチを繰り返しながら、徐々に組での存在感を増していく。

 とりわけ圧巻なのが、裏切り者の組員を自動車スクラップ工場で惨殺するシークエンス。組員ごと自動車をスクラップ機に放り込むと、命乞いする組員のアップの次にはくちゃくちゃになった車のすきまからミンチがうにゅっとはみ出るシーンに。組員インクルードなスクラップのかたまりを磁石で運搬する引きのショットでは、スクラップの外側にびろーんと肉が。いやあ、ここまで悪趣味だと「どこまで悪趣味にしてやろうか」といろいろ知恵をひねる制作者の努力を想像して、なにかほほえましい気分にすらなる。ともあれ、最後は吉田輝男が組の金をうまく横合いからせしめて、にやりと笑って終了という実にアクション映画の王道的なしめ方で終わる。この第3部は全体的にテンポもいいし、話もおもしろく、アクション映画監督としての石井輝男の面目躍如といった感がある。

 3部構成だけど、それぞれの話だけで1本映画がつくれそうな贅沢なつくりのこの「やくざ刑罰史・私刑!」。正直なところ、筆者はこの映画を見るまでは「際物作品でグロばっかりの下手物か、うーん」という感じを持っていたのだけど、特に3部はかなりいい出来具合で、敬遠するとすこしもったいないかも、と思う。


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