le cinema - 感想文


キル・ビル vol.1

2003年 ミラマックス(配給:ギャガ=ヒューマックス) / 監督:クエンティン・タランティーノ / 出演:ウマ・サーマン,ルーシー・リウ,デビット・キャラダイン,ソニー千葉(千葉真一),栗山千明


 タランティーノの好きなB級アクション映画やエクスプロイテーション映画のエッセンスをサンプリングして脳内で作り上げた話をそのまま映画作品にしたもの。外人さんが『直撃! 地獄拳』や『関東無宿』をやってるようなもんで,わけのわからない既視感がスピード感のあるカット割りに乗ってなんだかトリップしてしまう。

 「何行もある科白が言えない」(関本郁夫) 千葉真一がカミカミだったのはご愛嬌。クレイジー88との乱闘シーンでの細かいカット割りや吹き飛ぶ手足,飛び散る血しぶきは石井輝男『忘八武士道』で太刀を持った丹波哲郎がおおぜいの捕物たちに挑んでいくシーンをほうふつとさせる。この過剰さが口に会わない人はダメだろうけど,筆者の口にはよく合ったので,めずらしくおかわりをした。

 筆者の好みとしてはやはりブライドが東京に行ってからのくだり,つまり青葉屋以降,石井お蓮との対決のかっこよさをみどころとして推してしまう。ルーシー・リウは『チャーリーズ・エンジェル』では「なんでこんな不細工が」と思っていたが,お蓮の姐御ではその不細工ささえも魅力に感じてしまうから不思議なもんだ。日本刀を使った対決シーンでも,長身のウマ・サーマンが腰高に構えるよりも,着物を着ての立ち居振る舞いが決まったお蓮に目が行く。そこに梶芽衣子の「修羅の花」が流れてくるもんだから,もはやどこの国の映画だかわからない。

 梶芽衣子といえばエンディングにも「怨み節」がつかわれてたりしていたおかげで,古い日本映画に目を向ける人が出てきたようでよい傾向だと思う。残念ながら,外国の古い映画が好きな人は多いけれど,日本の古い,しかもこうした添え物的扱いを受けてきた映画が注目を浴びる機会はなかなかないので,映画会社もこの機を逃さずに昔のエクスプロイテーション映画をDVD化してほしいもんだ。


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