le cinema - あらすじと感想文


(秘) 色情めす市場

1974年 日活 / 監督:田中登 / 出演:芹明香・宮下順子・花柳幻舟・萩原朔美


 以前、神代辰巳の『女地獄-森は濡れた』がいいという話を後輩にしたら、「神代辰巳もいいですけど田中登もいいですよ」と貸してくれたのがこの『(秘) 色情めす市場』。舞台は昭和40年代半ばの大阪の釜ケ崎周辺。当時の大阪の猥雑で無国籍な空気がうまく描かれている。あのあたりは普通に歩くぶんには特にどうってことないが、いろいろ複雑な背景を持っている人が多いので写真撮影は御法度で、へたすりゃカメラを奪われてぼこぼこにされても文句は言えない。それにもかかわらず、三角公園や飛田新地、あいりん地区でカメラを回すという離れ業をやってのけており、記録としても貴重だ (ちなみに飛田新地を横切る阪神高速はまだ工事中)。

 春をひさいで生計を立てる芹明香は、同じく売春で生計を立てている母親の花柳幻舟 (これが濃い!) と客の取り合いから喧嘩を始めたりしながら、その日その日を白痴の弟と3人でしのいでいる。弟役の夢村四郎はよだれだらだら、それらしい奇声をあげるなど熱演しているが、当初この役はたこ八郎が演じる予定だったらしい。花柳幻舟には愛人がいるが、年増になったじぶんにいつ愛想を尽かして逃げられてしまうかと不安で、金でつなぎ止めようとする。同じように売春をしているふたりだが、一方は生活のため、一方は男のためにとその目的は対照的である。

 途中、会社の金を横領してきて逃げてきたらしい宮下順子と萩原朔美のカップルが大人のおもちゃ屋のおやじに騙され、宮下順子は置屋に売られる。好きな男がいるのに売春をさせられ、虚無感ただよわせながら堕ちていく宮下順子はまさに絶品。宮下順子はちょっとした行き違いから萩原朔美が逃げてしまったと思い込み、大人のおもちゃ屋のおやじに再び騙され、萩原朔美が帰ってきたときには、もうどうでもいいわとおやじの愛人になってしまっていた。「ワシのアレには真珠を埋め込んでいるさかい、女はもう離れられへんのや」と言うおやじはダッチワイフを萩原朔美に渡し、これの相手でもしておけと言い放つ。萩原朔美はダッチワイフにガスを詰め込み、萩原朔美の眼前でこれ見よがしに宮下順子をいたぶるおやじと3人で爆死してしまう。

 芹明香は白痴の弟の性欲を蒟蒻で処理してやっていたが、ある日とうとう体を与えてやる。朝起きると、弟はいなくなっていた。弟は鶏に縄をつけて引きずり、街を歩き続けていた。この濡れ場とまったく関係のないところで突然カラーになる。パートカラー作品だからてっきり濡れ場がカラーになるかと思いきや、である。弟は通天閣にほうほうの体で登ってゆき、上から鶏を投げてぶら下げる。それを下から見上げる芹明香。通天閣から降りた後、弟は民家の軒の上を猿のように走り回り、首をくくって縊死する。

 じぶんと同じように誰にもよりかかることなくひとりで生きている男から、釜ケ崎から離れて暮らさないかという誘いにも「うちはゴム人形の根無し草や、けどここで生活するしかあらへんねん」と言い切る芹明香のダウナーなグルーヴ感がなんともいえない。


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