le cinema - あらすじと感想文


羅生門

1950年 大映 / 監督:黒澤明 / 出演:三船敏郎・森雅之・京マチ子


 黒澤明の映画ってなんかとっつきにくい印象があって、意図的に見るのを避けてきたけど、それが食わず嫌いだってことがはっきりした1本。原作は芥川龍之介の『藪の中』と『羅生門』から。盗賊・多嚢丸と多嚢丸に強姦された女、死体で発見された女の夫、の3人をめぐって物語はすすんでいく。

 ある杣 (そま) 売りが山中で男の刺殺死体を発見、検非違使に通報したところ、犯人である盗賊の多嚢丸・三船敏郎が捕縛される。その後、殺された男の妻で、多嚢丸に強姦された女・京マチ子を詮議し、その証言が得られるが、まったくふたりの証言が一致しない。しからば、と霊媒師を使って刺殺された男・森雅之の証言を聞き出すが、これもふたりの証言と異なる。だれがいったい真実を語り、だれがうその証言をしているのか。そのうそはなんのためなのか――。雨の羅生門で、旅法師とふたりで悩む第一発見者。

 ところが、第一発見者はことの次第を一部始終目撃しており、3人ともがおのおのじぶんに都合のよい証言をしていたことがわかる。三船敏郎はじぶんがいかに男らしく戦ったかを強調、京マチ子はじぶんの貞淑さを強調、森雅之はじぶんに非がなく、妻がいかに冷たい仕打ちをしたか、とそれぞれ強調して話を作っていたのだ。実際は、京マチ子が「どちらか勝者のものになる」とふたりにけしかけ、へっぴり腰なふたりが斬り合いの末、ほうほうの体で三船敏郎が森雅之をやみくもに斬ったのだ。第一発見者は人間など信じられないと悩むが、そこで登場した男に「おまえだってその死んだ男の所持品を盗んだのではないか。だからほんとうのことを検非違使に申告できないのだろう」とつっこまれてしまう。

 人間心理の描写、宮川一夫のカメラワーク、精悍な三船敏郎、物語のテンポとどれをとっても一級品な映画。これを食わず嫌いで見なかったのはいままでもったいないことをしたもんだ。でも、ラストの妙にヒューマンな心温まるエピソードは蛇足に感じられた。


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