le cinema‐あらすじと感想文


ソドムの市

SALO O LE 120 GIORNATE DI SODOMA

1975年 イタリア / 監督:ピエル・パオロ・パゾリーニ / 出演:パオロ・ボナチェリ、アルド・バレッティ、カテリナ・ボラット / 音楽:エンニオ・モリコーネ


 原作はマルキ・ド・サド『ソドム百二十日』。話は快楽至上主義者の4人のファシスト (大統領・最高判事・大司教、公爵) が少年少女をかき集め、ありとあらゆる無体な快楽に耽るというもので、欧州の各国では倫理的に問題があるとして軒並み上映禁止になったいわく付きの作品。そりゃあ「神を信じるやつは罰を与える」「お互いの娘を交換して、それと結婚する」みたいなことはキリスト教国ではとうてい許されない内容だ。

 4人の権力者は若い男女を拉致し、品定めしたうえで屋敷に集める。彼らは権力者に快楽を奉仕する存在としてのみの価値を持ち、それ以外の価値は全否定される。この屋敷では4人の権力者とその権力者の快楽こそが絶対かつ至高であるため、それを否定する存在である神はその名を口にすることすら禁じられる。また通常、異常視されるあらゆる行為 (同性愛、肛門性交など) が奨励され、「男女が普通に交わった場合は片足切断の罰」と常識は全て唾棄される、というのがまず最初の前提条件。

 権力者が欲情するために女衒の女たちに艶っぽい体験談 (といっても常人からするとむちゃくちゃな話なのだが) を毎晩語らせ、それを軸に物語は進んでいく。最初の女は加虐 / 被虐について語りだし、それに触発された権力者たちがさまざまなプレイを行う。なかでも圧巻なのは全裸にされた奴隷たちの首にヒモをつけ、全員犬扱いするシーンだ。階段を十数人の「人間犬」が駆け登り、権力者たちに餌を与えてもらう。「食え! 食え!」とさまざまな料理を投げ与えられ、全裸の美少女が犬のようにちんちんをしてそれを犬食いところなんざあ、鬼畜度満点で個人的な趣味としては最高にいい感じだったりもする (笑)。次の女衒は糞尿趣味について語りだす。ここでの悪趣味の極みは2個所。恐怖と悲しみの中で泣いている奴隷の美少女 (もちろん全裸) の前で、権力者が「神なぞ糞くらえ」と脱糞しそれを喰うことを強要するシーンと、奴隷同士を強制的に結婚させそのパーティのメインディッシュが山盛りのそれであるシーンだ。もちろんあらゆるビザールな快楽を好む権力者達は「うまいうまい、こんな繊細な味が判らない人間はバカだ」とむしゃむしゃそれを喰うのであるが…。最後の女衒は残虐な責めについて語り出す。その話に欲情する権力者達は、奴隷のなかで反抗的であったり規則に違反した者を庭で次々と責め苛む。目をえぐる、舌を切り落とす、頭の皮をはぐ…。権力者たちは代わる代わる望遠鏡で部屋から眺めつつ、欲情し、気をやる。

 とまあ、あらすじを簡単に書くだけでとんでもない気違い映画なのだが、なぜか登場人物たちに感情移入せずに冷静に見られる不思議な映画である。過度に異常な描写も芝居がかって見える演出のためか、かえってリアリティを喪失させ、むしろ滑稽にさえ思えてくる。いきなり奴隷の女を犯す大司教を見て、その大司教の尻にまた欲情する大統領が大司教を犯したり、「尻の穴のきれいな奴隷を選ぶコンテスト」で「顔を見ると主観が入るので (大統領は男色家なので男の尻にしか興味がない)」と「頭隠して尻隠さず」状態で奴隷を並べたり、と思わず「おいおい」と笑えるシーンも多い。妙にほんわかしたモリコーネの音楽が内容と乖離しているのもいい味を出している。

 この映画 (というよりサドの哲学) で重要なのは「美徳 / 悪徳」「権力」についてだろう。公爵や女衒はこの物語の中では権力者だが、2人とも「自分の快楽にとってそれを抑圧する役割を担う母親は殺害した」と言う。つまり彼らにとって殺害した母親は「権力者」である。一方、衆人環視の中で公爵の脱糞したそれを喰わされる女奴隷は、拉致される際に母親を殺害されたので悲しみにくれ、神に祈り、助けを求める。この行為は公爵たちから見れば、母親・神という自らの自由を阻害する「権力」にすがりつく愚かしいものに映るわけだ。また、この映画では「美徳を守る行為自体がそれにより快楽や優越感を得る利己的な行為である以上、同じ利己的な行為である悪徳のほうがむしろ“腹黒さ”がないぶん純粋である」とするサドの哲学を忠実に踏まえている。この「美徳」に関しても「権力」と同様で、「守るべき美徳」は「〜すべき」という強制を伴う「権力」の枠組みといってもいいだろう。だとすると、4人の変態さんは権力者でありながら「権力」による枠組みを無効にする「革命家」ということになる。表面上の描写だけではスキャンダラスな面しか見えてこないが、もともと共産主義者であったパゾリーニの本懐はこのあたりにあるような気がする。


index  >> le cinema  >> ソドムの市

yen.raku@gmail.com