le cinema - あらすじと感想文


徳川女刑罰絵巻・牛裂きの刑

1976年 東映京都 / 監督:牧口雄二 / 出演:川谷拓三・汐路章・内村レナ


 東映の '70年代のプログラムピクチャを「Pinky Violence モノ」として再評価する動きがあり、時々レイトショウなどで特集されるが、これはその手のモノの中でも極北のような作品である。(ってなこたあタイトル見れば判るか)。この映画のポスターは真っ赤な地色に苦痛にゆがんだ顔をする女が十字架にかけられて、手前に牛が描かれた凶悪なデザインとなっている。筆者が幼少の頃、駅前近くにあった東映上映館の周囲におどろおどろしいポスターがよく貼られていて怖かったものだが、なぜか「十字架にかけられた女」というのが記憶に残っていて、今にして思えばこの映画のポスターだったのかもしれない (『聖獣学園』という可能性もあるが、筆者の年齢から考えると『牛裂きの刑』の可能性のほうが高い)。映画自体は2篇のオムニバス形式となっており、前半がタイトル通りの展開で、熾烈な拷問でキリシタンを取り締まる長崎奉行の話、後半が遊廓から足抜けをした男と女郎の物語で、前半と後半は全く関連性がない。

 映画が始まってのっけからあらすじにはまったく無関係な釜ゆでや火あぶり、胴体切断吊るし切りのシーンが登場し、無体な展開を予感させる。汐路章演じる長崎奉行はキリシタン狩りのため日夜過酷な拷問をするが、毎日拷問を見るのもマンネリ化で飽きてきたので、鼻をほじってかき氷食べながら「もっとおもしろい拷問はないのか」と部下に命じる。そこで部下は信楽焼の狸にキリシタンを放り込み蒸し焼きにしたり、ソースぺたぺた人間バーベキューや、女を蛇責めにしたりとバラエティに富んだ拷問 (というか処刑) をいろいろ編み出し、長崎奉行は欣喜雀躍する。ここまででもたいがいえげつないのだが、キリシタンの足をハンマーで潰す拷問では、ぐちゃぐちゃになった足を見て、長崎奉行は「キリシタンでも血は赤いのう」、さらにそこの骨をめりっとむしり取って「じゃが、骨は白い」。ここまでくれば悪趣味を通り越してむしろ笑ってしまう。

 さて、拷問マニアが集う奉行所の中ではまっとうな同心と村娘がひょんなことからいい仲になる。その後、ある隠れキリシタン一家が連れてこられるのだが、なんとその一家は件の村娘の一家だった。もともと同心は過酷な拷問を嫌い、奉行から反感を買っていたが、村娘が同心の女だということが奉行に露見してしまい、なんと村娘を自分の側女にし、同心に夜伽の番をしろ、と命じる。ここで、奉行が精力剤として水槽に泳いでいるイモリをむしゃむしゃと喰うシーンがあり、映画館の館内は爆笑に包まれる。口からイモリの足が出ても科白をしゃべる汐路章の役者魂にリスペクトだ (笑)。まあ、その後もその村娘の年かさもいかない妹の目を火箸で焼いてめくらにさせるは、村娘の家族を村娘の見ている前で磔・火あぶりにするはと、とにかく話はきわめて悪趣味に進む。同心と村娘は隙を見て逃亡するのだがやっぱり捕まってしまい、同心は斬られ村娘は不義密通の罪で牛裂きの刑に処せられることになる。処刑場で長崎奉行は酒を飲みながら「めりめりと股が裂ける牛裂きの刑じゃ」と高笑い。非人の処刑の準備が終わると、牛が動きだし、がらがらと滑車が音を立て、クレーンカメラからの俯瞰であっけなく両足がもげる。もちろんちぎれた胴体からの内臓のアップもお約束。執行後、酒をあおって気違いのように高笑いする長崎奉行のアップに「その後、長崎奉行はキリシタン取締の功績から小さいながらも大名に遇せられた」とナレーションが。おいおい、こんな悪いヤツが出世するんか、と身もふたもないオチに館内は失笑。最後、同心と村娘が川辺で戯れるイメージシーン (おそらく天国をイメージ) はソフトフォーカスで水に反射する逆光が美しく、今までの悪趣味さとのギャップを感じると同時に、妙にほろっとさせる。さっきまでの話とこの差は何なんだ。

 さて、前半の悪趣味三昧に比べ、後半も残酷シーンはあるのだが、後半メインの川谷拓三がいい味を出しているので、むしろ感動味のある青春映画の趣すらある。川谷拓三は女郎屋でどんちゃん遊ぶが払う金がないので、下働きとして働かされる。雑用をこなしていくが、足抜けをしようとした男の一物を切り落とす役をさせられ、こんなところは脱出したい、と惚れた女郎と死体運びを装って脱走する。二人は喧嘩をしながらも詐欺や美人局をしながらその日その日を暮らしていくが、ある日女郎を強姦した非人を勢い余って拓ボンが殺してしまう。逃げ回る二人だが、美人局をした相手が運悪く与力で、捕まってしまう。水責め、算盤責め、乳首をやっとこでひねるなどの拷問を受けるが、川谷拓三は「ワシが全部一人でやったんや〜」と女をかばう。女郎屋でもそうなのだが悲惨なシーンであっても、とかく拓ボンなので館内は笑いに包まれる。

 結局、ふたりは鋸引きの刑にされるが、女は女郎屋が手を回して払い下げてもらうので、拓ボン一人になってしまう。鋸引きと言っても戦国時代と異なり江戸時代になってからは形式的なものとなっており、竹の鋸を首枷の横に置いておき、そのまま磔でおしまいになるのだが、この映画だからそうはいかない。夜、乞食のような酔っ払い (野口貴史) がやってきて、拓ボンに気づく。乞食はにーっと笑いながら、竹の鋸をもって「切っれたらいいなー♪」と歌いだし「そんなもん切れへん切れへん」と抵抗する拓ボンの首をごりごりごり、肉片ぐちゃ、血じゃぶじゃぶ。館内大爆笑。翌朝、拓ボンの生首の口に遊びながら砂を入れる乞食のショットに、女郎に呼びかけるあの世からの拓ボンの声が重なる。「精いっぱいワシの分まで生きてや」。ちょっと感動シーンかも (笑)。


〔追記〕
なんと,ヨーロッパで本作のDVDが売られてます。
http://www.xploitedcinema.com/dvds/dvds.asp?title=2295
『SHOGUN'S SADISM (OXEN SPLIT TORTURING)』ってタイトルで価格も比較的安価ですが,いかんせん映像がPAL方式 (日本はNTSC方式) の上に,DVDのリージョンコードが欧州向けの「0」となってます。視聴したいならリージョンフリーのDVDプレイヤーとPAL方式対応モニタが必要になりますが,PCでならいろんな手段で見られるかと。[04/01/2004]


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