le cinema - あらすじと感想文


徳川セックス禁止令 色情大名

1974年 東映京都 / 監督:鈴木則文 / 出演:杉本美樹・三原葉子・名和宏・殿山泰司・山城新伍・渡辺文雄・大泉晃・由利徹・サンドラ・ジュリアン


 「徳川セックス禁止令」――。このタイトルを昔目にして以来、ずっと気になっていたこの映画。たぶんおばかな話なんだろうなあと思っていたら、やっぱりおばかなシャシンだった。それにしても、東映の「異常性愛路線」にはやたら「徳川なんちゃら」というタイトルが出てくるけど、徳川家の末裔からはクレームがこないのかね。

 あらすじはざっと以下の通り。九州某藩の藩主・名和宏は武道一筋の堅物だったが、江戸から姫・杉本美樹を奥方として招くことになった。藩主は女性を知らず、家老・殿山泰司のアドバイスによりなんとか初夜を迎えるが、手荒な藩主のふるまいに姫はへそを曲げてしまう。江戸への顔もあることから、藩主に性の快楽を覚えさせてテクニシャンにさせてしまおうと家老たちは豪商・渡辺文雄に依頼する。豪商はフランス娘・サンドラ・ジュリアンを献上、藩主はそのテクニックと美貌に参ってしまい、すっかり色好きになってしまう。それで姫とうまくいけばいいのだが、姫は堅い一方で藩主はますますサンドラに傾倒する。そして自分はこの快楽をいままで知らずに生きていたのに比べ、下々の者はやりまくっていたのが癪に障る――と藩内に「閨房禁止令」を発令する。

 これにより百姓たちは「やらせろー」と叫びながら一揆を起こすわ、役人は鼻血を出して仕事にならんわ、と藩内は大混乱。姫は藩主を拒絶した自分にも責任の一端があるとサンドラに愛の手ほどき (ってなんじゃそりゃ) を受ける。忠臣・成瀬正孝がサンドラを抱いて「愛を誰も拘束できない」と藩主に諫言し、自害。サンドラは「閨房禁止令」にのっとって砂浜で逆さ磔にされ、波間に消えた。多大な犠牲を払って藩主は目覚め、「閨房禁止令」を撤回、ひさしぶりに姫とセックスした藩主はサンドラ仕込みの姫のテクニックに刺激を受け、腹上死してしまう。翌年、藩の出生数は通年の数倍にものぼり、生産力の増加によりのちのちまで繁栄した――。

 書いてるだけでもばかばかしい話だ。新婚間もない鳳啓介・京唄子夫婦が初めてセックスしようとした瞬間に「禁止令」が出て、役人が踏み込んできてできずじまいだったり、執務中に鼻血を垂らすは、一揆を押さえる側のくせに「わしらだってやりたいんじゃ」と本音をもらすはと大活躍の大泉晃、色好きの素浪人・山城新伍など随所にばかばかしさがテンポよく配置されていて、単純に楽しめるのが非常によい。藩主の初夜に至っては、殿山泰司が「太鼓に合わせて腰をお振りくださいませ」といってドーンドーンと太鼓をたたくなど抱腹もの。その一方で、転びバテレンという暗い過去を持ち、宣教師の娘であるサンドラをフランス語でねちねち責め立てる渡辺文雄や、「禁止令」に背いて切腹させられる腰元 (!) など実はどす黒いエグさが根底に流れている。神に対する信仰を持ちながらも色欲の魔の手から逃れられなずに悩みまくるサンドラに、やたらキリストやら十字架といったアイテムがあらわれてくるのもそっち系の趣味のある人たちにはたまらないだろう。

 また、よく見ると、当時ゴールデンウィーク封切作品ということもあり、ずいぶんと予算をかけている。姫の輿入れの大名行列なぞも当然ながらすべてエキストラだ。藩主の入浴シーンでは名和宏の謡がばっちり決まっている (名和宏は能の金春流の家の出だ) など、押さえるところは押さえてある。

 早い話、「エロ+コメディ+反権力」の結果がこの映画。幕府の権力に対抗する藩主、藩主の横暴に対抗する民衆という構図はいささか時代めいてはいるものの (いろいろなセックステクニックを姫に要求して断られた際の藩主の科白「江戸の権力をかさにきおって」というのはちょっと違うかも)、公権力の介入が市民生活のレベルまで降りてくるのは危険だ、というメッセージを声高に唱えることなくうまくコメディにくるんだ鈴木則文の手腕はさすが。最後に「何人たりとも性を管理・検閲することはできない、神さえも」と字幕が出てくるのは蛇足かもしれない (実はそこは笑いどころだったりもする)。ちなみに「閨房禁止令」は映画中では「法令175条」となっているが、現在の刑法175条は「猥褻物頒布等」に関する罰則規定である。


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