第6回 谷崎潤一郎『蓼食う虫』
- ■放送日時:'94年5月31日 (火) 24:35
- ■文學ノ予告人:森本レオ
- ■Cast:
-
要:段田安則
美佐子:緒川たまき
高夏:清水昭博
お久:柾木良子
老人:二瓶鮫一
小夜:西山みゆき
弘:渡辺新司
- ■予告編のキャッチコピー:
- 恋はあまりにも、不実だった。
文学史上に妖しく輝く、谷崎美学の珠玉作!!
- ■名科白集:
- 別れるなら、春がいいわね。
徹底的に憎み通すと云うようなことは男同士の間でなけりゃないことだからな。
フェミニストと云う者は結局独身で通すより外仕方がないんだ。どんな女を持ったところで気に入る筈はないんだから。
女と云うものは悧巧なようでも馬鹿だからな。
成るほど、人形浄瑠璃と云うものは妾の傍で酒を飲みながら見るもんだな。
別れるのに都合のいい女だの悪い女だのってあるもんじゃないよ。
だって小父さん、牝牡ならば喧嘩しないって云うじゃありませんか。
道徳と云うものは個人個人で皆いくらかずつ違っていていい。人は誰でもその性質に適するような道徳を作って、それを実行するより外に仕方がないね。
若い時分に女遊びをした人間ほど老人になるときまって骨董好きになる。書画だの茶器だのをいじくるのはつまり性慾の変形だ。
- ■名場面:
- ―高夏が土産に持ってきた帯を美佐子が品定めをして、その後サンドウィッチを食べ
る場面。
―老人と芝居を見に行く支度の際、美佐子が要に羽織を着せる場面。
- ■登場人物ノ紹介:
- ・美佐子。
美佐子は28歳。歳のわりには水々しい肌をもつ、東京生まれの若奥様。
▼要との結婚生活に不満を感じ、神戸の仏蘭西語塾で阿曾と知り合い恋仲に。
▼夫も二人の関係を認め、美佐子は阿曾に会うため定期的に須磨へ出掛ける。
▼しかし夫や子供を捨ててまで阿曾のもとに走る勇気はない。
・要。
30歳過ぎの会社重役。現在は関西に居を構える有閑階級の一員。
▼妻の美佐子とは性的不一致。
▼もう何年もの間「夫婦」ではない。
▼妻から阿曾のことを告白されるが、なぜか積極的に公認してしまう。
▼実は、要にもルイズというハーフの愛人がいる。
・高夏。
高夏は、要の従兄弟。
▼上海と日本の間を定期的に渡る貿易商である。
▼要からも美佐子からも信頼され、両者から離婚の相談を受ける。
▼両親が離婚の危機にあることを、一人息子の弘に打ち明けてしまう。
・老人。
美佐子の父。まだ50前の若さだが早々仕事を引退し京都で隠居生活を送る。
▼生まれも育ちも東京だが、西洋被れの東京モダンを嫌悪し、関西風に染まる。
・お久。
老人の愛人。老人の仕込みにより、人形のような女になってしまう。
▼要はお久にひそかに思いを寄せている。
- ■作品ノ解説:
- 蓼食う虫。
「蓼食う虫」は昭和3年の11月から大阪毎日新聞と東京日日新聞に連載された。
▼同じ時期に連載された「卍」の悪魔的な描写とは著しく対照的な作風である。
▼震災によって兵庫に移り住んだ谷崎にとって関西とは全くの異文化であった。
▼その典型が「人形のような女」の存在。谷崎は人形の魔性に憑かれていった。
▼要と美佐子の不和の背景には、文壇史上名高い「小田原事件」がある。
▼だが、人形の魅力に開眼した彼が自らを投影しているのはお久を玩ぶ老人である。
- ■解説の先生:
- 「関西」出身の大阪弁もどきの言葉を話す先生。相方の女性に妙に「男紹介したげましょか」と持ちかける。
- ■今週ノ問題:
- 谷崎潤一郎「蓼食う虫」本文ノ中ニ、「?」ハ、イクツアルカ?
■使用された音楽
使用された場面 |
予告編
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アーティスト |
センス (S.E.N.S)
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曲名 |
「Aphrodite」
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収録アルバム |
『STATEMENT (ステートメント)』
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メーカー・型番 |
Fun House [FHCF-2145]
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- ■メモ
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この回のみ「登場人物ノ紹介」前に「この番組は、文學作品の芸術性を尊重するため、原文の表現・表記をそのまま使用しております。」との短い告知がはさまれる。これは、予告編にて「人形狂い」、名場面において「色気違い」の語句が出るためのものと思われる。でも「文學」と書くのなら、「藝術性」とも書いて欲しいところではある。あと、使用されている音楽はどこかで聞いたことがあるような気がするけどわからないので歯がゆい。と、思っていたら判明。
補足。『蓼食う虫』は「その後のK氏独自の制作スタイルを確立する記念すべき回」であったそうだ。
なにぶん毎週の放送に追われていたK氏はBGMを選ぶヒマがなかった。だから、前回の『雁』の選曲は音響効果の成岡氏にお任せだったらしい。
しかしその仕上がりに不満を抱いていたK氏は、この回でなんと撮影の合間にヘッドホンで選曲をするという暴挙に出たそうだ。
これがまんまとハマり、たまき嬢の台詞と音楽が実に気持ちよくマッチしている。
これ以降、すべての片岡作品はすべての選曲と全体の音楽プランが撮影以前に構築されるようになったそうだ。(K氏曰く「ビデオクリップ方式なのだ」)
ちなみに『いとしの未来ちゃん』では全作品の脚本執筆前に音楽 (サントラ) を決め込むという実験的な試みがなされた。
Special Thanks To deta@ppp.bekkoame.or.jp
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