ぶんがく
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第1回 武者小路実篤『友情』


■放送日時:'94年4月20日 (水) 24:50  (◆放送日時はすべて関西テレビ放送でのもの)

■文學ノ予告人:柄本明

■Cast:
杉子:井出薫
野島:村島亮
仲田:小島忍
早川:古坂和仁
武子:浅見由香
大宮:袴田吉彦

■予告編でのキャッチコピー:
恋はあまりにも、残酷だった。
文学史上、最も健全な青春恋愛小説!!

名科白集
恋は画家で、相手は画布だ。恋するものの天才の如何が、画布の上にも現れるのだ。

本当の恋と云うものを知らない人が多いので、純金を知らないものが鍍金 (メッキ) をつかまえるのだ。

恋はあつかましくなければ出来ないものだよ。

二人で生きられるものは仕合わせ者です。

人間には精神があります。虫けらからは耶蘇も釈迦も出ません。

女の運命を第一に気にするのが恋で、自分の欲望を満たそうばかりするのが肉慾だ。

ともかく恋は馬鹿にしないがいい。人間に恋と云う特別のものが与えられている 以上、それを馬鹿にする権利は我々にはない。

あなたのものになって初めて私は私になるのです。

私のこの願いをどうか、友情と云う石で、たたきつぶさないで下さい。

僕は親友の恋している女を横取りには出来ません。それは友を売ることです。

これが神から与えられた杯ならばともかく自分はそれをのみほさなければならない。

僕はもう処女ではない。獅子だ。傷ついた孤独な獅子だ。そして吠える。 君よ、仕事の上で決闘しよう。

名場面
◆ 杉子の鎌倉の別荘でのピンポン大会。
◆ 杉子と大宮との手紙のやりとり。

登場人物ノ紹介
・野島。
 野島は脚本家の卵。23歳だが、女をまだ知らない。 ▼帝劇で友人の妹・杉子と出会い、一目で恋心を抱く。 ▼自分を尊敬する女性と結婚することが、人生の幸福と考えている。 ▼運動神経は限りなくゼロに近い。神の存在を信じている。

・杉子。
 杉子は女学校の生徒で、鎌倉に別荘を持つ良家の子女。 ▼16歳だが、身体は随分といい。無邪気で活発、美しい。 ▼兄の友人がたくさん言い寄ってくるが、冷静に見ている。 ▼野島の恋心とは裏腹に、男らしい大宮に魅かれていく。

・大宮。
 大宮は、日本で最も有望な小説家。野島とは人生を語り合う親友。 ▼スポーツは万能だが隠している。女性には毅然とした態度をとる ▼杉子に恋する野島に協力するが、次第に杉子に心を奪われていく。 ▼野島との友情と、杉子との恋愛のはざまで、一人苦悩する。

作品ノ解説
友情。
 大正8年「大阪毎日新聞」に連載された近代日本を代表する青春文学。 ▼「坊っちゃん」「伊豆の踊り子」と共に近現代日本の最大ベストセラー。 ▼実篤は、当時建設中だった「新しき村」の若者のためにこの作品を書いたという。 ▼「作品にはモデルはなく事実もない」と述べているが、一方で「失恋の名人だったのでその方面の実感は書き易かった」とも語っている。 ▼大宮のモデルが親友の志賀直哉だという説はあまりにも有名。 ▼実篤はタイトルを「主人公は恋である。しかし恋と云ふ言葉を使いたくないのと この小説の色彩は友情によって染められているので友情とした」と書いている。

■解説の先生:
 「解説の先生」は「野島が女をまだ知らない」ことから、「こいつはチェリーじゃ」「こいつはチェリーじゃないな」などと「チェリー」を基準にものを考え、 最後は「人生万歳」ばかりを繰り返す先生。

■今週ノ問題:
武者小路実篤「友情」ノ本文ニ「友情」ト云フ言葉ハ何回出テクルカ?

■使用された音楽

使用された場面 予告編 (イントロ部分)
アーティスト アート・オブ・ノイズ
曲名 「LOVE」
収録アルバム CD『daft』
メーカー・型番 SMEJ ASSOCIATED RECORDS / ZTT [AICT-120]
使用された場面 予告編・名場面
アーティスト マイケル・ナイマン
曲名 「楽しみを希む心(The Heart Asks Pleasure First)」
収録アルバム CD『ピアノ・レッスン・サウンドトラック』
メーカー・型番 東芝EMI / Virgin [VJCP-25076]

■所感・その他
 こんな番組があるとは全く気づいていなかったときのオンエア。
 このころ、関西テレビでは水曜日の24:50ごろとやや深めの時間にオンエアしていたので気づきにくいのはやむを得ない。火曜日にはやはりフジテレビ制作の料理ドラマ「La Cuisine」をオンエアしていた。
 総集編と感想文スペシャルで見た限り、予告編は他のものと比べやや時間が短く、タイトルも武者小路実篤自筆と、異色の存在である。CMからヒットする前にマイケル・ナイマンの「ピアノ・レッスン」を使用し、かつ映画「ピアノ・レッスン」の内容が『友情』とリンクするものであることには、選曲の片岡K氏の手腕に脱帽である。
 配役は杉子に井出薫、大宮に袴田吉彦、野島に村島亮と割合おのおのはまり役である。まあ、袴田吉彦が村島亮を食っているのは力量の差か、はたまた身長の差か (笑)。蛇足であるが、卓球シーンにおいて井出薫嬢が左利きであることが判明した。
 と、いうことだったのだが、30分全編を見る機会に恵まれたのでいくつか追加。
 まず他の回と大きく異なる点としては、1つめは最初の CM に入る前のQカットがそれ用の音楽ではなく、「名科白集」で流れている「文學ト云フ事のテーマ (ピアノ・バージョン)」が「名科白集」からの流れで引き続きその音楽として使われている点。そして2つめは、他の回であれば2回目の CM 空けに「作品ノ解説」があるのに対し、この回では CM 空けに「名科白集」があり、その後に「作品ノ解説」があるという特異な構成となっている。だから、それがどうした、といわれればそれまでのことではあるけど。
 さらに、予告編で使用される音楽はふつう名場面では使用されないが、この回のみ「杉子と大宮との手紙のやりとり」の場面で予告編の音楽「楽しみを希む心」が再び使われている。最後に、「名科白集」の1行あたりの字数が12字とすこし少ない。
 あと、井出薫嬢が結構ふっくらしているのが微笑ましいのと、番組全体に「手さぐり感」が漂っているのもなんとなくいい。

制作協力:片岡K事ム所


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