ぶんがくん

第11回 伊藤左千夫『野菊の墓』


■放送日時:'94年7月12日 (火) 24:35
■文學ノ予告人:森本レオ

■Cast:
政夫:村島亮
民子:井出薫
嫂:合崎由岐
お増:扇京子
お仙:粕谷ひろみ
医者:盛一夫
父:宮田光
母:橘雪子

■予告編でのキャッチコピー:
恋はあまりにも、一途だった。
文学史上、究極の純愛失恋小説!

■名科白集:
民さんは野菊のような人だ。

民子が体をくの字にかがめて、茄子をもぎつつある其横顔を見て、今更のように民子の美しく可愛らしさに気がついた。

しなやかに光沢のある髪の毛につつまれた耳たぼ、豊かな頬の白く鮮やかな顎のくくしめの愛らしさ。

頸のあたり如何にも清げなる、藤色の半襟や花染の襷や、それらがことごとく優美に目にとまった。

政夫さんはりんどうのような人だ。

朝からここへ這入ったきり何をするにもならない。

外へ出る気にもならず、本を読む気にもならず、只繰り返し民さんの事許り思って居る。

僕はどうしてこんなになったんだろう。

学問をせねばならぬ身だから、学校へは行くけれど、心では民さんと離れたくない。

私は死ぬのが本望であります。死ねばそれでよいのです。

■名場面:
―茄子畑で民子と政夫が茄子もぎをする場面。
―民子の臨終の場面。

■登場人物ノ紹介:
・民子。
 民子は17歳。矢切村の政夫の家とは親戚である。▼政夫の母が病いに倒れ、野良仕事の手伝いに来ていた。 ▼政夫に恋心を寄せるが自分が年上だということに引け目を感じている。▼政夫と仲が良すぎることを咎められ、傷心する。▼結局、民子の母の一存で、市川の大きな家に嫁がされる。▼千葉へ向かう政夫を見送ったのが、最期の別れとなった。

・政夫。
 政夫は15歳。当時の小学校を出たばかりで、千葉の中学へ進学する。▼年のわりには、少々、大人びた言葉使いが多い。▼茄子畑で働く民子の横顔に、「女」を感じてしまう。▼民子との仲が問題となり、中学へ早めに入学させられる。▼冬休みに帰郷した時、母から民子が嫁に行ったことを聞かされる。▼だが、ふしぎなことにその時は何の感情もおこらなかったという。

・母。
 戦国時代から続く斉藤家を大変誇りに思っている。▼民子を姪として可愛がっていたが、政夫との間を引き裂く。▼だが、自分が民子を死に追いこんだことを心から悔いる。

・嫂。
 政夫の兄の嫁。民子と政夫との仲を騒ぎ立てたのはこの女である。▼ことあるごとに、なぜか民子に辛く当たる。
■作品ノ解説:
・野菊の墓。
 「野菊の墓」は明治39年に、雑誌『ホトトギス』に発表される。▼発表当時、伊藤左千夫は43歳。それ以前は正岡子規門下の歌人だった。▼歌人としての左千夫は、歌は心の叫びだと信じるほど、感傷的だった。▼一方、小説では子規流の写生文を使った独特の雰囲気を醸しだしている。▼同じ門下の斉藤茂吉はこの作品を、「垢抜けない表現は多いが全力的な涙の記録として感涙した」と書いている。

■解説の先生:
 「解説の先生」はとても泣き上戸で感動屋。政夫が民子に女を感じるシーンのように、全然悲しくないシーンにまで「泣けちゃうよ」と感動してしまうような先生。
■今週ノ問題:
伊藤左千夫「野菊の墓」本文ノ中ニ「の」ト云フ音ハ何回出テクルカ?

■使用された音楽

使用された場面 予告編
アーティスト コリー・ハート
曲名 「Hymn To Love(愛の賛歌)
収録アルバム 『愛の賛歌‐Edith Piaf Tribute』(V.A)
メーカー・型番 eau/東芝EMI [TOCP-8246]

予告編・選曲リスト協力:片岡K事ム所・phge031a@hmt.toyama-u.ac.jp


■メモ
 政夫役に村島亮だが、あまりこの役に合っていない気がする。『友情』での野島役、『オリンポスの果実』での坂本役はよかったが。でも袴田吉彦じゃ「今年中学に入る」という設定にはちょっとあわないような・・・
 ちなみに、この回の予告人・森本レオが座っていたり、予告編にも出てくる藁葺き農家はこの後、しばしば登場する。

 補足。この藁葺き屋根とその周辺風景、エンディング (夏バージョン) は千葉県の茂原市で撮影されたそうだ。しかし、あの風情ある藁葺屋根のお宅は、息子さんが「改築したい」と撮影の半年後に取り壊されたらしい。

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yen.raku@gmail.com