第16回 岡本かの子『老妓抄』



 ■放送日時:'94年8月23日24:35

 ■文學ノ予告人:赤座美代子

 ■Cast:
老妓:大川栄子
柚木:椎名桔平
みち子:井出薫
 ■予告編でのキャッチコピー:
恋はあまりにも、不可解だった。
日本文学史上、屈指の名短編!!

 名科白集
何人男を代えてもつづまるところ、たった一人の男を求めているに過ぎないのだね。

いまこうやって思い出してみて、この男、あの男と部分々々にひかれるものの残っているところは、その求めている男の一部一部の切れはしなのだよ。

だから、どれもこれも一人では永く続かなかったのさ。

陰の電気と陽の電気が合体すると、そこにいろいろの働きを起こして来る。ふーむ。こりゃ人間の相性とそっくりだね。

何でもいいから苦労の種を見付けるんだね。苦労もほどほどの分量にゃ持ち合わせているもんだよ。

何も急いだり焦ったりすることはいらないから、仕事なり恋なり、無駄をせず、一揆で心残りないものを射止めて欲しい。

どんな身の毛のよだつような男にしろ、嫉妬をあれほど妬かれるとあとに心が残るものさ。

「パッションって何だい」

「パッションかい。ははは、そうさなあ、君達の社会の言葉でいうなら、うん、そうだ、いろ気が起らないということだ。

男があんまり細かいことに気のつくのは偉くなれない性分じゃないのかい。

あたしたちのして来たことは、まるで行燈をつけては消し、消してはつけるようなまどろい生涯だった。

堅気さんの女は羨ましいねえ。親が決めてくれる、生涯一人の男を持って、何も迷わずに子供を儲けて、その子供の世話になって死んでいく。

仕事であれ、男女の間柄であれ、混じり気のない没頭した一途な姿を見たいと思う。

私はそういうものを身近に見て、素直に死にたいと思う。

年々にわが悲しみは深くして
   いよよ華やぐ命なりけり。

 名場面
◆柚木の部屋にみち子が遊びに来る場面。 (新潮文庫 p.16〜17)
◆柚木が老妓の許から旅に出る場面。 (新潮文庫 p.31〜32)

 登場人物ノ紹介
・老妓。
 本名は平出園子。職業上の名は小その。長い勤めの末、芸者屋を営んでいる。▼老妓の肌はうなぎの肌のように強く滑らか。▼羊皮紙のような神秘な白い色をしている。▼仕事も恋も夢中で一生懸命。そんな姿を若者に求めてやまない。▼柚木の面倒を見るのも、そのためである。

・柚木。
 発明家を目指す若者。小さいときから苦学をして電気学校を卒業する。▼仕事にしばられるのが嫌で、臨時雇い生活を続ける自由人。几帳面で整理整頓が大好き。▼老妓の申し出をうけ、生活の面倒を見てもらう。しかし、次第に発明への熱意を失い、太っていく。

・ みち子。
みち子は老妓の遠縁の娘。養女となり女学校に通う。▼情事を商品のように扱う社会に育ち、早くからマセてしまった。▼老妓に囲われた柚木を遊び相手にしようと、なにかと近寄ってくる。

 作品ノ解説
・老妓抄。
 昭和13年「中央公論」に掲載。女流短編小説特集の巻頭を飾った作品。▼発表直後から、川端康成、石川淳など第一線の小説家の絶賛を浴びる。▼文学史上、一二を争う短編小説の傑作という評価は、今も揺るがない。▼岡本かの子の文壇デビューは、昭和11年、47歳の時。▼作家活動はわずか4年間だけであった。▼かの子は、漫画家岡本一平の妻、そして画家岡本太郎の母である。▼その華麗な男性遍歴は、瀬戸内晴美の「かの子撩乱」に詳しい。

 ■解説の先生:
 「解説の先生」はちゃきちゃきの江戸っ子。「平出園子」のことを「しらでそのこ」といい、最後は喧嘩だ喧嘩だーといって、解説を放り出してどこかへ行ってしまう。
 ■今週ノ問題:
岡本かの子「老妓抄」本文ヲ全部ヒラガナニスルト何文字カ?
 ■使用された音楽:
使用された場面 予告編
アーティスト 小室哲哉
曲名 「1991」
収録アルバム 『マドモアゼル・モーツァルト』
メーカー・型番 ソニーレコード [Epic/Sony ESCB-1274]
予告編・選曲リスト協力:片岡K事ム所

 ■所感・その他
 ここで粋な老妓を演じている大川栄子は『斜陽』では「スウプをひらりひらり」飲んでいた (笑)。それにしても、椎名桔平ってこの頃に比べて、最近おでこ広くなったような気がするんですけど、このまま後退していくんじゃないかと少し心配です (笑)。映画「Gonin」で金髪なんかにするから余計に髪の毛痛むし...

 補足です。『老妓抄』の撮影に使われたのは代々木上原スタジオという古い家だそうで、なんでも撮影料が格安なためよく使われるそうだ。


←Previous文學ト云フ事のページに戻るNext→

目次に戻る

yen-raku@as.airnet.ne.jp