第17回 川端康成『朝雲』



 ■放送日時:'94年8月30日 (火) 24:35

 ■文學ノ予告人:石橋蓮司

 ■Cast:
宮子:井出薫
菊井先生:緒川たまき
宮子の母:五十嵐五十鈴
 ■予告編でのキャッチコピー:
恋はあまりにも、幻影だった。
日本文学史上、最も純潔なる青春少女小説!!

 名科白集
選ばれるのはしかたがないわ。人間ですもの。私達は選ばれて、選ばれて、生きてゆくのだわ。

「まあ。宮子さん、汗をお拭きなさい」と、あの方がハンカチを貸して下さって、それを顔にあてると急に涙がとめどなく、私は瞼をおさえたまま廊下に逃げ出してしまった。

古い窓から空を見上げた。初夏の空は雲もなく晴れていた。

御幸福を祈る。

いつかあの方は、「竹取物語」を教室でお読みになったことがあった。

「日本の一番古い小説ですけど、やさしい文章でしょう?一番古い物語が、こんなによくわかる言葉で書いてあるのは、うれしいと思いませんか。

乙女の純潔を崇拝する思想が中心になっていて、日本の昔の物語のうちでは珍しいとおっしゃった。

竹と月と富士とが日本の美しさの象徴として書かれているとおっしゃった。

昔の人のあこがれがあるとおっしゃった。

なんというあまのじゃくだろう。

あの方に見られたいくせに見られまいと人の陰にかくれて、自分はそっとあの方を見たり、あの方となにげなく話せる人がうらやましかったり。

そんな時、「あの方は美し過ぎるもの」とささやくのが私の口癖だった。

あの方のように美しい方がなぜ女学校の先生になどなっていらしたのだろうと、お怨みしたこともあった。

あの方はこの世に沢山の罪を振り撒いて生きてゆきながら御自分は少しも御存知ない。

美しくなりたいと私が絶望的なほどに切なく思い出したのも、あの方のせいだった。

 名場面
◆ 宮子が菊井先生と一緒に縄跳びの輪に入る場面。 (新潮文庫* p.151〜152)
◆学芸会の帰り、菊井先生と宮子と母が、夜道を3人で歩く場面。 (p.162〜163)

*「朝雲」は新潮文庫『花のワルツ』に収録されています。

 登場人物ノ紹介
・宮子。
 宮子は、富士の裾野にある女学校の生徒。国語が好きで成績も良い。 ▼3年生の時に新しく着任した美人国語教師菊井先生に、好意を抱く。 ▼その思いは、一緒に縄跳びを飛んだだけで知覚を失ってしまうほど。 ▼卒業しても宮子の恋心は消えず、手紙に思いをつづる。 ▼菊井先生に宛てて出した手紙は、全部で8通にものぼる。

・菊井先生。
 菊井先生は、都会から赴任してきた国語教師。▼着任早々、島崎藤村の詩に振付をつける課題を出し、度肝を抜く。▼学校では、地味な服だが、それでも際立ってしまう美貌の持ち主。▼「御幸福を祈る」という謎めいた言葉を、卒業色紙に書く。▼宮子の卒業後、学校をやめて、都会へ帰る。

・母。
 宮子に連れられ女学校のバザアに出掛け、菊井先生と初めて出会う。▼その美しさに感心するが、宮子の恋心にはまったく気づかない。

 作品ノ解説
・朝雲。
 『朝雲』は、昭和20年に出版された同名の短編集に収められた。▼菊井先生には、川端が入れこんだ踊り子・梅岡龍子の面影がある。▼川端は、舞踏の持つエロティシズムに敏感に反応した最初の文学者。▼『朝雲』は、川端の転換期の作品と言われる。▼都会的なモダニズムから日本叙情的な路線への変化が感じられる。▼宮子の目を通して語られる女教師の描写は、かなりエロティック。▼それは、紛れもなく川端自身の視線である。

 ■解説の先生:
 「解説の先生」は坊主頭にピアスの出で立ち(?)で、マッチョと織田裕二大好きの先生。「男が男を愛して何が悪い」と言ってると、なぜかマサハルなる人物が「ボクの先生、マッチョマッチョー」「チューしてよぅ」などと乱入。マサハルが「川端先生、渋くてかっこいい」と 言うと、先生が「マサハル、わたくしよりかっこいいかい?」と聞き返し、「先生がイ・チ・バ・ン」とマサハルが答える。
 ■今週ノ問題:
川端康成「朝雲」本文ノ、ヒラガナノ数ノ合計カラノ数ノ合計ヲ引クト、イクツニナルカ?
 ■使用された音楽:
使用された場面 予告編
アーティスト ピチカート・ファイヴ
曲名 「ちょっと出ようよ」
収録アルバム 『ピチカートマニア!』
『ノン・スタンダードのピチカート・ファイヴ』
メーカー・型番 テイチク / Non-STANDARD [TECN-15256]
テイチク / Non-STANDARD [TECN-22333~22334]

使用された場面 名場面
アーティスト アンドレ・ギャニオン
曲名 「はじめから L'eternel retour」
収録アルバム 『イマージュ image』
メーカー・型番 Epic Sony / Epic acoustic [28・8P-5214]
w  (現在はキティレコードから発売)
 

 ■所感・その他
 文學ノ予告人が石橋蓮司という時点ですでに制作者サイドの勝ち。なんと彼は縄跳びまでしてしまうのである (笑)。この番組を制作していたジーワンが後日、制作した「コレージュ・ダムール〜恋の学校」では理事長役で出演し、怪演を披露していた。ちなみに理事長席のブックエンドには、ファン垂涎の「文學ト云フ事ブックカバー」をつけ た本が置いてあった。
 内容的には美人教師・菊井先生に 緒川たまき、教師にほのかな恋をする女学生・宮子に 井出薫、と鉄壁の布陣である。
 ここで宮子の母として出演している五十嵐五十鈴は「よい国」で 「フィフティーン・ハリケーン・シスターズ(F.H.S.)」 という訳のわからん双子として、五十嵐美鈴と一緒に出ていた。
 ちなみに予告人のロケ地は護国寺 (東京都文京区)である。

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