ぶんがくん
第3回 川端康成『みずうみ』


■放送日時:'94年5月11日 (水) 24:50

■文學ノ予告人:鈴木清順

■Cast:
桃井銀平:大高洋夫
久子:井出薫
町枝:宝生舞
宮子:角口明美
信子:星野衣厘
銀平:篠崎杏兵 (子役)
やよい:大村彩子 (子役)

■予告編でのキャッチコピー:
恋はあまりにも、罪悪だった。
文学史上、最もスリリングな知的冒険小説

■名科白集:
能動者があって受動者のない快楽は人間にあるだろうか。

僕は水虫なんて知らんね。あれはぜいたくしている、やわらかい足に出来るんじゃないのかね。高尚な足に下品な病菌がつく。人生ってそんなもんだ。

おたがいになんの秘密もない親友なんていうのは病的な空想で、女の子の弱点の仮面だね。

先生、また私の後をつけて来て下さい。私の気がつかないようにつけて来て下さい。

金を使ったということは、その金がなくなった後でも思い出せるが、金を貯えたということは、その金をただ失ってしまえば、思い出すのもにがにがしい。

秘密はまもられていると、あまくたのしいものだが、いったんもれると、おそろしい復讐の鬼になって荒れるよ。

きれいな月が出ると、先生も見ていらっしゃるでしょうと思いますし、風雨の日には、先生のアパアトはどうかしらと思うんですもの。

恋には二人のほかに身方なんて、絶対にないんだよ。

一度おかした罪悪は人間の後をつけて来て罪悪を重ねさせる。悪習がそうだ。一度女の後をつけたことが銀平にまた女の後をつけさせる。水虫のようにしつっこい。つぎからつぎへひろがって絶えない。

この世の恐怖を忘れさせてくれるものは、老人にとっても母のほかにはない。

来世は僕も美しい足の若ものに生まれます。あなたは今のままでいい。二人で白のバレエを踊りましょう。

先生、首をしめてもいいわ。うちに帰りたくない。

■名場面:
―銀平が久子の部屋から脱出する場面 (新潮文庫・p.107最終行〜p.113,6行目)
―銀平が町枝のあとをつける場面 (p.75,7行目〜p.80,5行目)

■登場人物ノ紹介:
・銀平。
 桃井銀平は、34歳。日本海の海辺に生まれ、高校の国語教師になる。▼11歳の時銀平の父は湖で奇怪な死を遂げた。▼彼の足の指は猿のように長くて、しなびている。▼不幸な生い立ちと身体のコンプレックスが彼のアイデンティティー。▼教え子・玉木久子を尾行し、水虫の薬を譲ってくれ、と迫る。▼久子との関係がばれて銀平は学校を追われ、その後、尾行が癖になる。

・久子。
 久子は、闇市で成功した金持ちの娘。後をつけさせるほどの魔性の美少女。▼銀平とのことで強制的に転校させられるが、密会を続ける。▼銀平と別れた後、他の男性と結婚して、思い出の地に新居を建てる。

・信子。
 久子の同級生で親友だったが、銀平との関係を学校に密告してしまう。

・やよい。
 銀平のいとこ。銀平より2つ年上で銀平にほのかな恋情を寄せられる。

・町枝。
 町枝は瞳がまるで湖のように黒くて大きい美少女。▼柴犬を連れて散歩しているところを銀平に尾行される。

■作品ノ解説:
みずうみ。
 昭和29年、雑誌「新潮」に連載されセンセーションを巻き起こす。▼日本的な叙情を背景にした川端文学のファンはこの作品を全く否定。▼逆に「みずうみ」こそ川端文学最高の傑作と評価する者も多い。▼後期川端文学の是非をめぐっての一種「踏絵」のごとき作品と言えなくもない。▼主人公・銀平の意識はふとした契機に全く異なった時間と場所へと飛ぶ。▼この手法を20世紀モダニズム文学の特徴である「意識の流れ」と呼ぶ。▼この前衛的な方法を、川端は美しい文章と非凡な構成力で書き上げた。▼川端は、昭和43年ノーベル文学賞を受賞。▼その4年後、仕事場のマンションの一室でガス自殺。

■解説の先生:
自分の意見を言わずに鸚鵡返しにしゃべり、いねむりばかりしている先生。

■今週ノ問題:
川端康成「みずうみ」本文中ニ、「銀平」ハ、ノベ何回出テクルカ?

■使用された音楽 (判明分)

使用された場面 予告編の前半
アーティスト ジェリー・ゴールドスミス
曲名 「Mocara」
収録アルバム CD『ザ・スタンド・サウンドトラック』
(映画原題「The Medicine Man」)
メーカー・型番 サウンドトラック・リスナーズ・コミュニケーションズ
/ Varese Records [SLCS-7122]:廃盤のため,輸入盤のみ

使用された場面 予告編の後半
アーティスト エンニオ・モリコーネ
曲名 「Poverty (つらい想い)」
収録アルバム CD『Once Upon A Time In America・サウンドトラック』
メーカー・型番 Video Arts Music
/ Restless/Rykodisc [VACK-1265]

■メモ
 私見ながら予告編・名場面あわせて,すべての作品中もっとも優れた仕上がりであると思う。名場面では、銀平が久子の部屋へ忍び込む場面と,町枝の後をつける場面とがあるが,どちらも制作者の演出が光っている。実際,演出の片岡K氏は『TV Bros.』誌のインタビューで好きな小説に『みずうみ』を挙げており,井出薫嬢も「一番印象に残っているのが『みずうみ』」と「電撃王」誌でインタビューに答えている。
 予告編前半の音楽がわからなく,まったく手がかりもないので (この回の選曲は音効の成岡氏担当のため,片岡K氏の選曲リストにはない) 困っていたが,ある時「報道特集」のオウム真理教特集の際に提クレやタイトルバックのBGとして使われていたので,往復はがきで問い合わせてみた。すると,番組のスタッフからアルバム名・曲名だけでなく,簡単な映画のデータまで書いていただいた丁寧な返事がきたので,なんとかCDが手に入れることができた。この曲 (Mocara) はパニックものなどのBGに使われることが多く,テレビ朝日では地震や災害ものの報道特番でよく耳にする。

追補:名場面で犬がくわえている鼠の死骸は、最初東急ハンズで実験用 (?) のネズミを購入してそれを殺して撮影しようとしたが、誰がネズミを殺すかでスタッフがモメにモメて、撮影が二時間オシてしまったそうだ。結局、ネズミのおもちゃを買って撮影したが、K氏は不満が残ったという。

Special Thanks To deta@ppp.bekkoame.or.jp
予告編音楽・協力:fwgh3659@mb.infoweb.or.jp

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