第2回 夏目漱石『三四郎』
- ■放送日時:'94年4月27日 (水) 24:50
■文學ノ予告人:柄本明
- ■Cast:
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三四郎:大沢健
美禰子:井出薫
広田先生:北島道太
- ■予告編でのキャッチコピー:
- 恋はあまりにも、難解だった。
文学史上に燦然と輝く青春小説の金字塔!!
- ■名科白集:
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三四郎は茫然 (ぼんやり) していた。
やがて、小さな声で「矛盾だ」と云った。
大学の空気とあの女が矛盾なのだか、あの色彩とあの目付きが矛盾なのだか、
それとも未来に対する自分の方針が矛盾しているのかこの田舎出の青年には、
凡て解らなかった。ただ何だか矛盾であった。
女は恐ろしいものだよ。
雲は雲じゃなくっちゃ不可 (いけ) ないわ。
こうして遠くから眺めている甲斐がないじゃありませんか。
どうも好きなものには自然と手が出るものでね。仕方がない。
豚などは、手が出ない代わりに鼻が出る。
結婚は考え物だよ。離合聚散 (りごうしゅうさん) 、
共に自由にならない。
僕が女に、あなたが絵だと云うと、女が僕に、あなたは詩だと云った。
二十歳 (はたち) 前後の同い年の男女 (なんにょ) を二人並べてみろ。
女の方が万事上手 (うわて) だぁね。
男は馬鹿にされるばかりだ。
熊本より東京は広い。東京より日本は広い。日本より、頭の中の方が広いでしょう。
画はインスピレーションですぐ描けるから可いが、
物理の実験はそう旨くは不可ない。
自然を翻訳すると、みんな人間に化けてしまうから面白い。
崇高だとか、偉大だとか、雄壮だとか。
「ヘリオトロープ」と女が静かに云った。三四郎は思わず顔を後ろへ引いた。
ヘリオトロープの罎 (びん) 。四丁目の夕暮。
迷羊 (ストレイシープ) 。迷羊 (ストレイシープ) 。
空には高い日が明らかに懸る。
- ■名場面:
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◆ 三四郎と美禰子が広田先生の引越を手伝う場面。
◆ 三四郎と美禰子の別れのクライマックス。
- ■登場人物ノ紹介:
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・三四郎。
三四郎は、福岡県出身の東大一年生。熊本の五高を卒業して上京する。
▼母や他の異性から度胸がないと評される。
▼大学の池の淵で団扇を持った女美禰子と出会い、虜になる。
▼東京の激しい動きに驚きながら恩師や友人からいろいろと学ぶ。
・美禰子。
美禰子は、自由放任主義で育った都会の新しい女。
▼三四郎にヘリオトロープという香水を買ってもらい、愛用する。
▼とかく思わせぶりな振る舞いが多く、三四郎を翻弄する。
▼三四郎以外にも多くの男性を虜にするが、結局別の男性と結婚する。
・広田先生。
広田先生は、英語教師。独身で、生活能力はゼロに近い。
▼熱烈なファンに囲まれているが本人は出世に無欲である。
▼「日本は滅びるね」と言い放つニヒリスト。
- ■作品ノ解説:
- 三四郎。
明治41年朝日新聞に連載され「それから」「門」と共に三部作をなす。
▼作品の舞台となった東大の瓢箪 (ひょうたん) 池は、
後に三四郎池と呼ばれるようになった。
▼漱石は「私は女の読者を眼中に置いたことがない」と語っている。
▼つまり彼は男のために、女を書いていた。事実、
漱石ファンは男性が圧倒的に多い。
▼鼻っぱしの強い美禰子のモデルは婦人運動家の美女・平塚らいてう。
▼彼女は一流のお嬢様の身で、漱石の弟子と謎の心中事件を起こした。
▼そんな彼女の生きざまを知り、女性の神秘さを描いたとされている。
- ■作品ノ解説「用語の手引き」:
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迷子 (ストレイシープ) 。
注:新約聖書・マタイ傳福音書第18章12節-13節より。
「汝等いかに思ふか、百匹の羊を有てる人あらんに、若しその一匹
まよはば、九十九匹を山に遺しおき、往きて迷へるものを尋ぬか。
もし之を見出さば、まことに汝らに告ぐ、迷わぬ九十九匹に勝りて
此の一匹を喜ばん。」 (文語訳)
ヘリオトロープ。
注:ムラサキ科の小低木。ここではその花から取れる香水のこと。
当時は高級だった。
われは我が愆を知る。我が罪は常に我が前にあり。
注:舊約聖書・詩編第51篇3節。
- ■解説の先生:
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「解説の先生」はなんでも畳語にしてしまう先生。
例えば広田先生がニヒリストである、ということについては
「もう、ニヒニヒ。広田先生ニヒニヒだから」となんだか説明になっていないが、
その口調は笑える。この先生は漱石「夢十夜」でも登場する。
- ■今週ノ問題:
- 夏目漱石「三四郎」本文ノ中ニアル数字ヲ全部足スト、イクツニナルカ?
■使用された音楽:
使用された場面 |
名場面
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アーティスト |
Andre Gagnon (アンドレ・ギャニオン)
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曲名 |
「Photo Jaunie (セピア色の写真)」
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収録アルバム |
『Les Jours Tranquililies (静かな生活)』
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メーカー・規格番号 |
ユニバーサルミュージック [UICE-3004]
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予告編・選曲リスト協力:片岡K事ム所
- ■所感・その他
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この時点で始めてオンエアに気づき、録画はした。だが残念なことに早送りで一通り見ただけで消してしまう。ただ、柄本明だけが印象に残っていた。
予告編に関して言えば、ロケ地点が大変美しく、実際の東大構内の三四郎池よりもより「三四郎池」のように思えた。あと、井出薫嬢の美禰子は少しイメージと違うような気がしないでもない。
と、いうことだったのだが、30分全編を見ることができたのでいろいろ追加。
まず他の回と大きく異なる点としては、1つめは最初の CM に入る前に「友情」の予告編の曲 (ピアノ・レッスン) が流れ、「先週、武者小路実篤の『友情』の予告編を放送したところ全国の書店から『友情』の文庫本が消えました。明日は早起きして『三四郎』の文庫本買いに行ってね。」と手書きのテロップが「友情」の文庫本をバックに出ていた。
2つめはこのページにもあるように「作品ノ解説」がいつもと違い、2回あった。2回目のほうは「用語の手引き」として、むつかしいと思われる言葉を「読書感想文スペシャル」のときのBGMを流しながら、例の掛け合いで簡単に説明していた。
補足:「三四郎池」のロケ地は広尾の有栖川公園。ついでにいえば美禰子がヘリオトロープの匂いを嗅がせるシーンは六本木にある古い教会でのロケ。撮影許可がもらえなかったので朝早くにゲリラ撮影をしたそうだ。また「美禰子のモデルである平塚雷鳥と恋愛事件を起こした漱石の弟子」というのは森田草平のこと。
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