le gastronomique de chien

犬料理大全 #1



1-1 人間と犬

 もともと現在の家犬は野生の犬,すなわちオオカミがその祖先である.そして,犬が家畜化されて現在のようなペットとなるまでにはいくつかの段階を踏んできた.最初はおよそ3万年ほど前,野生犬が人の部落の周囲を徘徊し,人の食べ残しをあさるといった寄生的な生活から始まった.その寄生的な生活のうちに,人は残飯や汚物の処理,部落に危害を加えうる猛獣の接近の告知などの番犬としての役割,といった犬の有益性を認め,追い払うことなく放置した.犬の側も部落の周りで定住することによって,餌である残飯が間断なく供給されるという利点があり,次第に人に対して同類意識をもつにいたったと推測される.

 野生犬の群にはリーダーを中心にしてそれに服従する性質があるので,餌を与える人に対してリーダーに類する位置を認識し,それに服従するようになったと考えられる.また,野生犬には群で狩りをする習性があったと思われるので,人はその性質を利用して狩りをするなど,互いに補完利用しあう関係となり,次第に人はイヌを家畜化していったものと思われる(1).

 だが,利害関係の一致だけで人が犬を家畜化しただけではあるまい.おそらく,食用にもしていたであろうし,実際遺跡などから食用に用いられたであろう犬の骨も発見されている.

 その後,犬は番犬や狩猟犬,牧畜犬,軍用犬などと人にとって有益な動物として一定の役割を果たしてきたが,近代に入り西洋で実用性の観点から逸脱した無目的な愛玩動物,すなわちペットと化した後は,人間による愛玩それ自体のために犬は飼われ続けている.

1-2 犬肉食の文化

 犬を食用に用いることを禁止する文化の範囲は,ヨーロッパ,アメリカ,イスラム教圏,タイ,インドシナの一部,西及び中央アフリカの一部,また古代ではギリシア,インド,エジプトと非常に広い(2).犬肉を食用とするのは次のような地域が代表としてあげられる.しかし,現在では犬肉を常食としている地域は支那を除いて少なく,食料が欠乏した際に食する程度である(3).この項ではポリネシア,支那,朝鮮,そして日本の犬肉食について見ていきたい.

1-2-1 ポリネシア

1-2-1-1 歴史

 ポリネシア人がそもそもどこから渡来したかについては,従来から,東南アジアから渡来したとする西方起源説が有力であった.しかし,動物学者であったノルウェーのトール・ヘイエルダール博士がポリネシア人の祖先は南アメリカの前インカ時代人である,とする東方起源説を立て,1947年にはその説を立証するために,ペルーからフランス領ツワモツ諸島まで筏を組んで実験漂流を行った.これにより,東方起源説が確立されたかのように見えたが,かえって従来の西方起源説の再検討を促し,その実験により得られた事柄がほとんど否定される結果となった.

 すなわち,言語系統,神話や伝説,フォークロア,栽培植物や家畜の輸入経路などがすべて西方起源説の論拠となる結果となったのである.近年では,支那南部や香港から発掘された石斧の形式が東南アジアからポリネシアまで分布するものと同種であるということが判明し,犬を食べる習慣や犬自体も支那から東南アジアを経由して伝播したと考えられる(4).

1-2-1-2 調理方法

 ポリネシアにおいては犬肉も一般的な石焼による.調理方法は,地面に穴を掘り,そこに草の葉で肉などを包んだものを入れる.そして,その上から焼け石を放り込んで蒸し焼きにするものである(5).また,ハワイやタヒチでは祭りの際に犬を素手で絞め殺し,内蔵を除去し,毛焼きをして,血を塗り,土に埋めて蒸し焼きにしていたようだ(6).


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