第21回 二葉亭四迷『浮雲』



 ■放送日時:'94年9月27日25:35

 ■文學ノ予告人:范文雀

 ■Cast:
文三:袴田吉彦
お勢:井出薫
昇:村島亮
お政:緋多景子
お鍋:後藤久美
 ■予告編でのキャッチコピー:
日本近代文学の幕あけを飾る記念すべき第1作!

 名科白集
蘆垣 (あしがき) の間近き人を恋い初 (そ) めてより、昼は終日 (ひねもす) 夜は終夜 (よもすがら) 、唯その人の面影而已 (のみ) 常に眼前 (めさき) にちらついて、砧 (きぬた) に映る軒の月の、払ッてもまた去りかねていながら、人の心を測りかねて、末摘花 (すえつむはな) の色にも出さず、岩堰水 (いわせくみず) の音にも立てず、独りクヨクヨ物をおもう、胸のうやむや、もだくだを、払うも払わぬも、今一言の言葉の綾 (あや)

人間地道に事をするようじゃ役に立たぬ。

私には……親より……大切な者があります……

へーへー恐れ煎豆 (いりまめ) はじけ豆ッ。

(およ) そ相愛 (あいあい) する二ツの心は、一体分身で孤立する者でもなく、又仕ようとして出来るものでもない。

アア偶々 (たまたま) 咲懸ッた恋の蕾も、事情というおもわぬ沍 (いて) にかじけて、可笑しく葛藤 (もつ) れた縁 (えにし) の糸のすじりもじった間柄、海へも附かず河へも附かぬ中ぶらりん、月下翁 (むすぶのかみ) の悪戯 (たわむれ) か、それにしても余程風変わりな恋の初峯入り。

 名場面
◆ 文三がお勢の部屋に来るも、恋を打ち明けられず呻吟する場面。 (新潮文庫 p.21〜27)
◆ お勢・お政・昇の3人が、文三を家に残して団子坂の菊見に行く場面。 (p.72〜74)

 登場人物ノ紹介
・文三。
 文三は23歳。旧幕府に仕えていた父を13歳の時に亡くす。 ▼幼少時から成績優秀。立身出世を求め、東京の叔父の家に寄宿する。 ▼役所勤めをするが、人付き合いが苦手でリストラされてしまう。 ▼いとこにあたる叔父の娘・お勢に思いを寄せるが、言い出せない。 ▼役所をクビになってから、態度が豹変した叔母らになじられる。

・お勢。
 英語を学ぶハイカラ美人。ふた言目には学問のない者をバカにする。 ▼英語を習うために文三の部屋に出入りするが、男には無頓着である。 ▼文三が免職処分になったことも、母ほどは気にしていない。 ▼しかし、内向的な文三に次第に嫌気がさしてくる。

・昇。
 昇は24歳。文三の同窓生で同じ役所に勤めている。 ▼成績はさほどだが、人付き合いが抜群にうまい。 ▼文三がお勢に惚れていると知りながら、自分もお勢の虜になる。

・お政。
 お政の最大の関心事は、お勢の婿を誰にするかということ。 ▼文三を婿に決めていたが、役所をクビになったとたん手の平を返す。 ▼昇をかなり気にいるが、それはどうやらお政だけの思いこみである。

 作品ノ解説
浮雲。
 明治20年、金港堂から発行された。当時の著者名は坪内雄蔵。 ▼これは四迷の師、坪内逍遥の名。2年前逍遥は「小説神髄」を発表。 ▼「浮雲」は「小説神髄」に沿って書かれた日本初の言文一致体小説。 ▼四迷はこの文体を作るために寄席に通ったり、一度ロシア語で書いてから翻訳してみたと言われる。 ▼それほど当時の日本語は、話し言葉と書き言葉がかけ離れていた。

 ■解説の先生:
 「解説の先生」は今までの先生全員が登場。予想通りむちゃくちゃになってしまい 収集つかず (笑) 。実はこの「解説の先生」の声の担当は、演出の 片岡K氏
 ■今週ノ問題:
なし。
 ■使用された音楽:
使用された場面 予告編
アーティスト S.E.N.S.
曲名 「人と時と風の中へ」
収録アルバム 『ステートメント』
メーカー・型番 Fun House [FHCF-2145]
予告編・選曲リスト協力:片岡K事ム所

 ■所感・その他
 最終回なので近代文学の始まりを告げる作品を持ってきたのだろうか。 キャストがが第1回『友情』と同じく、井出薫袴田吉彦・村島亮。
 この家も『人間失格』『或る少女の死まで』『蒲団』で出てきた家と同じ家のような気がするが...



←Previous文學ト云フ事のページに戻るNext→

目次に戻る

yen-raku@as.airnet.ne.jp