真っ赤な嘘

 高校か大学か,いつのころだか忘れたが,とある地下鉄駅で年配の女性に「三越に行くにはこのホームの電車でいいですか」と尋ねられた。日頃利用しない路線だったので一瞬迷った後「向かいのホームだと思います」と答えると,その女性は筆者に礼を述べ,連絡通路を渡って向かい側のホームへと歩いていった。内心,いいことをしたなあと思いつつ筆者が地下鉄に乗った数分後,自分が三越の最寄り駅に到着したのだった。勘違いではあったものの,結果として嘘を教えてしまったことになり後悔した。

 先日,会合のため赤坂サカスに向かうためタクシーに乗った折りのこと。「246からコロムビア通りに入ってTBSまで」。運転手はカーナビを見ながら「あー,お客さんちょっと混んでますね」「乃木坂回りだとどうですか」「大回りにはなりますけど,そっちのほうが早いかもしれないですね」「じゃあそっちでお願いします」「で,TBSは手前のところで左折していいですかね?」「え,地下鉄の出口の前でいいですよ」。話がかみ合わないのでよく聞くと,TBSの周辺は再開発でずいぶん様相が変わったようだ。

 同乗者と,地理の情報もこまめにアップデートしないといけないね,という話の流れで赤坂サカスのネーミングの話題になった。筆者はうろおぼえで「アカサカのスペルを逆にして赤坂とくっつければ回文になるからだよ」といい加減なことをいったら運転席から「へえ,そうなんですか」と納得したような声が聞こえてきた。

 その後,気になったので赤坂サカスについて調べてみたら,名称の語源はまったく違っていた。あの個人タクシーの運転手は乗せたお客に赤坂サカスのいんちきな語源を話していないか心配だ。自覚のない嘘ほどたちの悪いものはない。