[20-08-1997]中国 #5 ‐ 昆明・石林

昨夜の遅れが影響し,昆明に到着したときには日が高くなっていた。予定では,石林行きの日帰りツアーを昆明の旅行社で申し込むつもりだったが,この時間帯ではもう遅いだろう。ということで,マイクロバスで送迎のみ行うツアーに予定を変更。街の中にはたくさんの観光マイクロバスが客を拾いながらぐるぐると回っており,そのうちの一つに乗ればよい。昨夜の学習から客がある程度乗車していて出発寸前のバスを探すことにした。

なんとなくほこりっぽい昆明市街

どのバスも熱心に(というかうるさく)行先を連呼しているが,そこそこ客が埋まっているバスを見つけて乗った。予想通り満員になるまで出発しないらしく,われわれが乗車した後もぐるぐる回遊しながら,「石林」と書いた札を持った女性の客引きが「シーリン,シーリン」と行先を連呼している。お客になりそうな人物を見つけるとすばやくバスから飛び降り,ひっぱってきては交渉する。もちろん,全然その気のない人を引っ張ってくることもあるので効率は良くなく,いいかげんいらいらしてくる。そのうち,客引きが金持ち風の親子連れとおぼしき男性2人組を連れてきた。年かさの男性が「これはすぐに出発するんだろうな」みたいなことを言っているようだ。説得が成功したらしく,2人組が乗り込んでくる。しかしまだぐるぐる回っているので,「早く出発しないのか」というようなことを大きな声で言っていた。

結局,出発するまで1時間くらいかかる羽目になった。15分くらい走った後,農村の入口で客引きの男女を下ろした。狭い通路を挾んで私の横に座っている先ほどの親子連れは妙に体も態度もでかいので観察していると,サングラスをかけ,手には石の数珠のようなブレスレットをじゃらじゃらいわせ,バミューダを履いていた親父は宍戸錠そっくり。もちろんあだ名は「エースのジョー」に決まりだ。ジョーの息子の方も同様にアクセサリーをつけ,ふてぶてしい様子だった。ジョーは当初出発が遅れたため不機嫌そうであったが,切符切りの女性と話がはずんで,いつのまにやらご満悦の体であった。

さて,バスが停車するので何かと思えば宝飾店で,買い物をさせたいらしい。買う気はまったくないが,トイレに行くため店内に入る。ジョーを観察していると,店員の説明を聞いたりして購買欲はありそうだが,やはりそこはシビアに何も買っていないようだった。再び出発し,碧山老師とあれこれ他愛のない会話をしていると,切符切り嬢が話しかけてきた。中国語は話せないと答えると何やらまた言ってくるので,メモとペンを手渡すと「イ尓地方人?」と書いてきた。ははん,中国語を話していないのでどうも我々のことを少数民族と思っているらしい。日本人だと言うのを警戒してたのだが,言わないとかえって不審がられそうなので「日本人」と書いて返した。相手はそれで納得したらしく,それ以上の質問はなかった。ジョーは興味津々で我々の方を見ていた。

次に食堂で止まった。ここも先ほどの宝飾店と同様,運転手たちにバックマージンを払っているのだろう。無駄に現金を使いたくなかったのもあるが,脂っこい料理が続いているせいか昨夜来胃がもたれているのでとうてい昼食を取る気にならなかった。友人も同意見で,じゃんけんに負けた友人が軽食を買いに行った。

強い日差しの中,15分くらいして買い物から友人が戻ってきた。ペプシコーラとお菓子とウィンナを駐車場で頬張ることにした。ペプシは田舎にしては珍しく冷やしてあった。現地では飲み物を冷やして提供するところは限られており,喉が渇いているときに冷えた炭酸飲料は非常にありがたかった。その分,3.5元と若干高めの値段だった。駐車場から開放してある窓を通して食堂の様子がうかがえたが,青島ビールをラッパ飮みするジョーの豪快な食べっぷりが印象的だった。

その後,ドライブインのような食堂が軒を連ねる農村を通過すると,店の前では毛をむしられた家鴨が何匹も首からぶら下げられて,主人が調味料らしきものを首から胴体にかけて擦り込んでいる光景が見られた。他の食堂の前でも同様にぶら下がっていたので,どうもご当地の名物らしい。道路沿いの川を見ると,網で仕切られた中にたくさん家鴨が泳いでいた。

さて,そこから結構走った後に岩が突き出たようなそれらしい景色が見え始めると,幹線道路からはずれ,みやげ物店があるようなところに到着した。石林かと思ったが,どうもこじんまりしている。皆は降りたり降りなかったりだが,降車する人の方が多いので,とりあえず皆について下車する。3枚綴りの共通入場券を買って,一団が鍾乳洞の中に入っていくのでついていく。白い鍾乳洞をピンクや緑色の照明でライトアップするのは全くもって趣味が悪いのだが,どうもそれをサービスと思っているらしい。ここはどうも石林とは違うようだ。

出てバスに戻るとジョー親子の姿はなかった。おそらく「オレは先に石林に行くぜ。もう待ちきれねえ」とばかりに先に行ったのだろう,と友人と結論づける。さらに2個所洞窟を回ったが,どこも似たような景観だった。鍾乳洞の中に入るとサニ族のかわいい娘さんが民族衣装をまとってガイドしてくれるが,何をいっているのかわからないので,いてもいなくても同じである。後からわかったのだが,この鍾乳洞や洞窟は地下石林といって一応観光地らしい。だが,わざわざ10元も払って芝雲洞・畳雲岩・祭白龍洞を見る必要はないと思う。やはりジョーの判断は正しかったのだ。さすがはエースのジョー。

次にやっと石林に到着したと思ったらそこは石林のミニチュアのような公園で,15分くらいで外に出る。なぜこんな所に寄るのかは意味不明。ま,無料だからいいか。で,やっとのことで石林に着く。いいかげんこの時点で気分は盛り下がっていた。言葉がわからない我々は「5時半に出発するので遅れないで」と腕時計を指しつつ切符切り嬢に念押しされる。片言で5時半ね,と答えると,車番を覚えておけ,と言われる。確かに駐車場には同じようなマイクロバスがたくさん止まっていた。

入園口に向かって歩くと,我々の会話を耳にしたサニ族の物売りが近寄って来て日本語でみやげを勧める。毛頭買う気がないので完全に無視する。かなりしつこいが,售票所であきらめたようだ。さすがは「中国国家級風景名勝区」だけあって入場料は30元と高額。ここにも市場経済の波は押し寄せており,裏面に「広告位」と広告を募集している。

ここの入場票は磁気カードになっており,自動改札(といっても機械ごとに横に係員がいる)を通り抜けて中に入ると,またぞろサニ族の物売りがついてきた。「安いよ。お兄さん日本人でしょ」。無視していると「私言うこと聞こえないの。刺繍どう」とさらにしつこく来る。友人がたまりかねて「刺繍,大嫌いだからいらない」と言うと「どうしてそんなこと言うの」と食い下がってくる。温厚な友人もたまりかね「うるさい」と一喝すると「あんたひどい人。日本人の馬鹿」などと延々と大声で罵りだしたのには閉口したが,それ以上近づいては来なかった。外国に行くとどうも日本人はこういった物売りのカモにされているので,その余波を被って非常に困る。連中はかなり値段をふっかけているので,買いたいのであればきちんと厭わず価格交渉をして,日本人はカモではないと思わせなければこういった手合いはなくならないだろう。

さて,肝心の石林の方だが,奇岩ぞろいでなかなかおもしろい。いろいろ見て回ったがとかく岩場で高低差が大きく,重い荷物をしょって歩いていたのでかなりの負担だった。

石林は石灰岩が雨で浸食されて奇岩となるカルスト。世界遺産に登録された。
望峰亭より。
小石林。石林の中にある。

5時過ぎに駐車場に戻るとマイクロバスの数はかなり少なくなっていた。早くに来たバスは既に帰ってしまったのだろう。5時半近くになりおおよその乗客が戻ってきたが,先に離脱したエースのジョーの分などの空席があるので,また埋まるまで待機である。いつ出発できるかはまったくの運だ。結局,最後に近いくらいに出発し,昨日の深夜バスといいついていない,と友人と相槌を打つ。帰路につくが,どうもエンジンの調子がよくないらしく,我々の乗ったマイクロバスはしょっちゅう追い越されている。メロンの中西俊夫風の運転手は焦る風でもなく走らせているが,こちらは早く昆明に戻って宿を確保したいのだ。

行くときに通りかかった家鴨のドライブインを見ると,ぶら下がっている家鴨がこんがりといい飴色になっていた。友人とうまそうだ,と盛り上がる。バスの振動でうつらうつらしていると,バタンとドアが開く音で目が覚めた。自動小銃で武装した公安が入口にいる。乗り込んできた公安は,我々に荷物を開けて見せろ,と言ってきた。臨検だ。友人がパスポートを取り出し,提示すると何も言わずに降りていった。車内で大きな荷物を持っていたわれわれの所に来たのだろうが,外国人はノーチェックということは事前に知っていたので,無用なことをせずにすんで助かった。

昆明に到着する前にはすっかり暗くなっており,疲れた体で宿探しをする気力もなく,昆明火車站の北数百メートルにある2星級ホテル三叶飯店にチェックインした。昼は粗食であったし,ちょっとぱっとしない空気が続いているので,おいしいものでも食べようと外へ出かけた。

道路を挟んで向かいにある,昆明でも一,二を争う錦華大酒店の1階にあるレストランに入る。メニューがよくわからないので,英語のメニューを頼む。選んでいるとマネージャがギャルソンに「あれは外国人用のメニューだろう」と注意し,ギャルソンが「いえ,あの人たち外国人みたいなんです」と答えているようで,マネージャは笑っていた。もっとも服装は汚く現地人風の風体だったので,間違えられても仕方がなかった。近くのテーブルには日本人ビジネスマンらしき3人組もおり,店内にはKTV (カラオケ) ルームもしつらえてあるところから見ると,錦華大酒店は日本人ビジネスマンの常宿のようだ。

久しぶりに冷えたビールを飲みメニューを物色する。正直言って,連日の脂っこい料理に加え,昨夜の食べ過ぎであまり食欲は湧かなかった。そこで,腹やすめの意味から薬膳でもある鮑の粥を注文した。値段は30元くらいとかなり値が張るが,こういうときはけちけちしないほうがよい。他にもあっさりしたようなものを数品頼もうとするが,おきまりの「没有」でなかなか思うようにいかない。運ばれてきた鮑の粥は絶品で,味付けも上品。疲れた胃に優しく,いくらでも入りそうだった。これで食欲も復活し,さらにいろいろ注文した。なかでもおいしかったのが家鴨の舌の燻製で,舌がたくさん皿に山盛りになって出てくるのが圧巻だった。歯触りはこりこりしており,軟骨部分を残して食べるが,軟骨の先端は柔らかいので食べることが出来る。かくして満足感を覚えつつ宿に戻り,一日を終えた。