赤い雪景色

 所用で北海道に行ったときの話。札幌‐旭川を特急スーパーカムイで移動中,旭川に近い神居古潭あたりのトンネルがちのエリアを快調にとばしていると,異音とともに列車がトンネルの中に頭を突っ込んで急停車した。冬場は高速走行中に電車が雪の塊をはね飛ばしたりすることが多いので,そのたぐいかと思っていると「ただいま,鹿と衝突したため,安全を確認しております」と車内アナウンスが流れ,車掌がばたばたと運転席に向かっていく。周囲はトンネルが続く辺鄙なところでもあり,半分程度も埋まっていない車内はなんとなく不安な空気につつまれていた。10分ほど経ったころに「車両の安全を確認し,衝突した鹿を線路の外で処理しましたので発車します」とのアナウンスが流れると,「処理って…」というささやき声が聞こえ,動き出した列車のなかに剣呑な空気が漂う。

 トンネルを抜けると車窓は雪景色,のはずが窓には一面べっとり血飛沫が。どうやら鹿をはねたのではなく轢いたようだ。乗客の中には無言で反対側の座席に移る人もいた。

 北海道では蝦夷鹿が増えすぎ,従来は道東が中心だった鹿との衝突事案が道央あたりでも発生するようになり,JR北海道はその対策に苦慮しているらしい。人身事故ではないものの,なんとなく気持ちが重くなった。