[22-08-1997]中国 #7 ‐ 無錫・蘇州

朝早く起き,「国家級風景名勝区」の鼈頭渚公園に向かう。そこからの景勝地・太湖の眺めはいにしえの文人が讃えたほど風光明媚らしいので,若干の期待をもちつつ運河飯店の前からバスに揺られた。ちなみに「鼈頭」とは「すっぽんの頭」という意味で,公園の中にある鹿頂山から見て,太湖に突き出た半島の形がそのように見えることから付けられたものらしい。広さは琵琶湖の3倍程度とのことだ。到着するとまだ朝早いせいか人の姿は少ないが,すでに公園は開いている。中国はたいていのところは朝早くから開いているし,人も朝早いうちから行動するようだ。逆に,有料の公衆厠所(公衆便所)はどんな深夜であっても,5角(約7円)や1元(約14円)を回収するために服務員が座っている。

さて,公園の入口の售票処で入園料を払おうと値段表示を見ると,三段階に分かれている。一番安くて30元とかなり高額な入園料であるのに,ましてやそれ以上誰が払うのだろう,と疑問に思いつつ,価格の違いを見てみると,公園の中での遊覧船の料金や,別に入場料のいる区劃の料金を含めるか否かで金額が違っているようだ。窓口で迷っているわれわれの横で現地の少女が同じように迷っているが,意を決したように票を買ったので,われわれも30元を払って票を買う。どうも少女は値段の高い票を買ったようだった。

中に入ってしばらく歩くがなんのことはないただの公園だった。キャラクターをあしらった連接式の遊覧バスが停車しており,われわれは歩くことにしたが先ほどの少女は乗るようだ。右手にみずうみを見ながら歩くこと約20分,ようやく観光地らしいところに到着した。先ほどの遊覧バスの折り返し地点でもある。この場所にもゲートがあり,少し歩くと太湖観光の遊覧船乗船場,さらにその先には亭などがあり,亭とみずうみを背景にして現地人観光客が写真を撮っていた。名所とはいえ曇天の上,湖水の色も茶色いのであまりおもしろい写真は出来そうにない風情だった。なお,太湖の水質は都市化・工業化によりそうとう悪化しているらしい。

遊覧船乗船場にもどり,太湖遊覧に出ることにする。沖合いを航行している別の船を見て船好きの友人が「あの船はこういったところにある船にしてはスタイルがいい」と賞賛するので,じっくり見てみると確かに船首からのラインが美しい。15分ほど船に乗り,予想通り何もなさそうな感じの島に到着する。広場では楽団が演奏し,なにやら民族衣装を着て舞を舞っている。さきほど售票処にいた少女もいたがなにやらつまらなそうな表情をしており,現地人にとって安くはない入園料を払ったのにこの内容では気の毒だと思った。

広場からは右の方へ行くと散策路,左へ行くと寺があるらしいが,どちらも大したことはなさそうなので左へ進路をとる。橋を渡ってすぐに道が分かれ,寺に行くには階段を上らなくては行けないらしい。もういいかげん面倒になってきたので,階段を上らずに遺跡があるというみずうみ側の道を進んでいくことにする。そこには案の定,最近になって作られたと見られる布袋像やらインチキっぽい遺跡のようなものがあり,「西遊記」のドラマのロケでもやりそうな雰囲気であまりにもキッチュなでき具合に笑いがこみ上げる。ここらあたりで島にいるのもたいがいイヤになったので再び遊覧船に乗り,公園にもどる。さすがに公園の入口まで歩いていくのは億劫だったので遊覧バスに乗ることにした。結局一番安い「票」で遊覧船にも乗り(チケットはノーチェック),全部のエリアを見たわけだから最初の售票処で高い入園料を支払った少女はまことに気の毒としかいいようがない。

ホテルに戻り,昨日の夕食をとったレストラン(中餐庁)とは違うレストラン(食舫)で昼食をとる。計58元。雰囲気はこちらのほうがよかった。ホテルのカウンタで無錫から蘇州に行く列車のチケットをとろうとするが,どうも満席らしい。駅に行けば買えるだろうと,とにかくバスで無錫站に行くことにする。窓口に並ぶと,手近な時間の列車は売り切れだったものの,なんとか14時46分発の旅游特快列車の切符を入手。発車まで時間があるので駅前の汽車站(バス乗り場)の向かいにある百貨大楼(デパート)などを少しぶらついてみる。

時間になり改札が始まったので構内に入る。駅の改札口は出札口とは全く違うところにあることが多く,この無錫站も同様だった。月台(ホーム)に入ってきたのは2階建て列車で,われわれの座席は上層(2階)だった。対面式の座席の間にはテーブルがあり,あまりきれいではないながらもいちおうテーブルクロスも敷かれていた。

短時間で蘇州站に到着する。駅を出ると交通量のあまり多くない広い通り(車站路)があるが,バス乗り場がわからない。うろうろしているとタクシーの運転手が声をかけてくるが無視をして,ともかくメインストリートの人民路を市街地方面に行けばバス停があるだろう,と外城河を渡る。蘇州のシンボル北寺塔を目の前にしつつ10分ばかり歩くとバス停に到着し,人民路を南下する1路バスに乗車した。予定していたホテルの最寄りの停留所と勘違いして途中の停留所で降りてしまったり,ホテルの場所そのものを間違っていたりと珍しく足踏みをしてしまい,2人とも疲労困憊した揚げ句,南林飯店という十全街にあるホテルに行くことにした。

ふらふらしている途中,人民路沿いに珍しくスーパーマーケットがあり,店の前で楽団がにぎやかに客寄せの演奏をしていた。中に入ってみると,店の品物を盗むような輩のための対策か入口そばにある窓口で手荷物を預かるようになっていた。ペットボトルの「百事可楽(ペプシコーラ)」や「七喜(セブンアップ)」が幾分か安く売られていたので,七喜を購入する。ホテルに着くと,もともと外国人向けらしく敷地はゆったりとしており西洋人の姿もちらほらと見受けられた。チェックインカウンタでタリフを見せてもらうと料金は高い目なのでどうしようか,これでもいいかなと友人とちんたら相談していると,安い部屋のタリフを引っぱり出してきて提示した。外国人と見て最初は高い部屋を出してきたらしい。安い部屋に宿泊することになり部屋に行ってみると,単に旧館であるというだけで設備などもしっかりしており,今回の旅行中でもっとも快適な部屋だった。

荷物を置き,買ってきたジュースを冷蔵庫に入れ,市内観光に行こうと外出した。しかし,目的地へ行かないバスに乗ってしまったり,目的地行きのバス停を見つけたけどもすでに終バスが出た後だったりと全くついていなかった。先ほどのスーパーマーケットからさらに南へ下ると,商業地だったのが南門汽車站(バスターミナル)あたりで急に雰囲気が悪くなってきたので外城河を大きくまたぐ人民橋で引き返すことにした。ここらあたりで食事をしよう,と食事をするところを探すが気力が萎えているせいもあってか,どうもいまひとついい感じの店が見つからない。やたらと派手な字体で「快食快餐! **餐庁」と書かれた店も多いが,何やらあやしげに見えるので入る気がしない。

そんな中「台灣式即餐庁」と銘打たれた店があり,なんとなく雰囲気がよさげだったので入ってみた。要はファストフードなので,カウンタでメニューを見ながら注文し,少し待たされた後に妙に照明を落としてある2階席でビールを飲みつつ食事をした。残念ながらどの料理も脂っこく,台湾料理とはほど遠い味付けだった。友人とは前回台湾旅行をしたときにたらふく現地で台湾料理を食べたので,二人で「おそらく店主は実際に台湾に行ったことがないヤツだ」と決めつけておいた。食事を終えると散策する気力もなく,タクシーを拾い,ホテルに戻った。朝から風邪気味だった友人は相当疲労しており,ベッドに倒れるとすぐに寝てしまった。